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6月9日~大人と子供③~
だが間もなくして、彼の『ぅぎゃあぁぁあああ!!』という叫び声が聞こえてくる。
何をそんなに大騒ぎしているのだろうと思い駆けつけてみると、森岡が風呂場の前で立ち尽くしていた。
「何だこれ……紫苑くん!! 風呂場まで使ったのか!?」
「ああ、勝手に使わせてもらったけど。そんな大声出してどうしたの」
さすがの紫苑も人の家を荒らすようなことはしない。シャワーを借りた後、元々あった状態に戻しておいたはずだが、何がいけなかったのだろう。
「紫苑くん、俺のバスタオル使っただろ!!」
「うん」
「うん、じゃない! 素肌に触れるものを他人と共有するなんて有り得ない……」
「おっさん潔癖症かよ」
「潔癖じゃない。綺麗好きなんだ。……ああ、なんか一気に疲れた……やっぱり俺もシャワー浴びてスッキリしよう……」
森岡は涙声になりながら肩を落としてしまった。その様子を見て、少しやりすぎたと反省する。
「あの……ごめ」
『ごめんなさい』
そう言いたかったのに、目の前の扉がバタンと閉じてしまった。
脱衣所から追い出された紫苑の耳に、森岡が服を脱いでいるであろう布擦れの音が微かに聞こえてくる。
知識不足の紫苑には、こういう時の対処法を見いだすことが出来なかった。
わがまま放題に育ってきたせいで、怒らせてしまった相手の気持ちを慮 ることが苦手なのだ。
(こんな風に締め出すってことは、相当キレてるよなぁ。俺が謝ったところで話聞いてくれなさそうだし、どうすれば……)
「あっ! そうだ」
腕を組んで考えていたら名案が浮かんだ。
(身体でお詫びすれば良いんじゃん! 結局昨日はヤれなかったし、奉仕されて喜ばない男なんていねぇだろ)
そう閃くと同時に身体が動き出していた。
脱衣所の扉を開くと森岡は既に浴室に入っていた。半透明の折戸の向こうに、長身の男のシルエットが浮かび上がっている。
「おいおっさん!」
ノックもせずに折戸を勢いよく開けると、森岡は驚いてビクッと肩を振るわせた。
「うわッ! こ、今度は何しに来たんだよ!」
「なあ、俺とヤらせてくれよ」
「だからしないってば」
「あんたを怒らせちまったお詫びだよ。身体で払うから、許してくれねぇか?」
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