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第7話

曽根崎もαだ。 高校生にしては体が出来上がっていて、素行は悪いがスポーツは万能で優秀。それに曽根崎は代議士の息子だと聞いたことがある。 それだけでα気質だと感付くが、それよりも結空の鼻腔を刺激したのは曽根崎の匂いだった。 どうしてこのタイミングでここへ現れたのか。 そんなことを考えることも出来ないほど、吸い寄せられる、抗えない、匂い。 結空は曽根崎なら、自分を楽にしてくれると本能で感じ取っていた。 結空は手を伸ばして曽根崎の首を自分の方へ引き寄せる。 「せんせ……曽根崎に、連れてってもらいます……」 「ほら。本人もそう言ってるし」 「何を言ってる。授業中だぞ!勝手は許されない……うぐっ」 「はぁ?」 曽根崎が片手で教師の胸ぐらを掴み捻りあげる。 「は、離しなさっ……」 「おい。てめーの首なんざいつでも飛ばせんだぜ」 「くっ」 苦痛に歪む教師の表情に、更に畳み掛けるようにして金子が口を開いた。 「先生、ヒート抑制剤飲んでます?顔に書いてありますよ。私はαだけど薬は飲んでませんって。教師なんて聖職についてるなら尚更、体調管理はαの義務ですよ。……曽根崎早く連れて行けよ」 「確かに、教師のくせに生徒に発情とか、クソきめーわ」 曽根崎はそう言い捨てて掴んでいた胸ぐらをぱっと離した。 咳き込む教師を尻目に、結空は曽根崎に手を引かれ教室を出た。 「ま、待って、足がもつれる」 結空は突然訪れた体の異変を管理することが出来ず、廊下に崩れ落ちる。 歩くことも出来ないなんて……! もしもこれが本当にΩの作用だとしたら……。 いや、それより……、そんなことより、曽根崎からすごく、すごくいい匂いがする。 考えるだけで、ぞっとする話だが、それよりも体の疼きが激しくて、結空はαである曽根崎を欲した。普段ならば話すこともないであろう、不良の曽根崎。 なのにどうして。 どうしようもなく、曽根崎に惹かれる。 「た、助けて……」 赤く上気した頬で、丸い目を潤ませて、甘い吐息を吐きながら手を伸ばす。 「食っていいってこと?」 結空は瞬きをして涙をぽろぽろ溢しながら、こくりと頷いた。 そんなのだめだって、心の奥では叫んでいるのに、体の疼きを止めることなんて到底無理で。この熱を逃したいと、それ以外のことが考えられない。 今日、この時、結空は初めて男に抱かれたいと思った。 曽根崎は整った男らしい大きな口の端をくっと持ち上げて笑う。 「可愛いなぁ、矢萩。お前がそんなに可愛い奴だったなんて知らなかった」 そう言って、ひょいと結空を担ぎ上げる。

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