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転化

どれくらい眠ったのだろう。 結空が目を開けると真っ白な天井が目に入り、ここがどこなのかわからず首を動かし辺りを見回した。 「……保健室?」 「あ、矢萩君起きた?」 女性校医の新海が結空に声をかけた。彼女は背中まであるロングの黒髪を後ろで一つに束ね化粧っ気のない顔で事務椅子に座っていた。 「あ……はい……」 さっきまで俺……? そう気付いて慌てて身体を起こした。 シャツもニットも着ている。布団を捲って確認すると、下は制服からジャージへと変わっていた。 だが特に着衣の乱れはない。 曽根崎が整えてくれたのだろうか。だけど……。 曽根崎に犯されたんだ……。 自分の性が何なのか確認できないまま、曽根崎にΩと決めつけられて犯された。無理矢理されたことに間違いないけれど、自分が曽根崎を欲していたのも事実で、結空の心がどんよりと曇る。 「突然の発情で矢萩君が気を失ったって、曽根崎が抱えてここに連れてきたんだよ。この学校、結構いるんだαの子が。だから君が次々に襲われてしまう危険もあったし緊急事態と判断して、即効性のある発情抑制の注射打たせてもらったから。気分はどう?」 「……怠くて熱くてどうしようもなかったのが、なんかすっきりした感じです」 驚くほど体調が悪かったのに。 今はすっかりいつもと変わりなく、体の異常は感じない。 「よかった。でもそれは一時しのぎにしか過ぎないから。矢萩君は発情抑制剤、ちゃんと処方された通りに使用してる?時期を間違えると大変なことになるんだからちゃんと医師の指示に従って薬を服用しないといけないよ」 「……ません」 「え?」 「俺、Ωじゃありません」 「どういうこと?βなのに突然発情したってこと?」 「それが……わからないんです」 「曽根崎が君を連れてきた時は、私でもわかるくらい君からΩの香りがしてたけど……。もしかすると、突然転化型なのかもしれないね。早めに病院行って検査してもらって。発情期に抑制剤飲まないΩの子は学校を休んでもらうことになってるからね。そうなると授業が受けられなくてついていけなくなる場合もあるし……。それの繰り返しで学校辞めちゃった子もいるし、結構深刻な問題だから」 「……はい」 新海の話からすると、曽根崎はあんな無体を働いておきながら、何事もなかったかのように結空を保健室へ運んできたようだ。 思い出すと腹立たしくて、結空はぎゅっと手元のシーツを握り締め眉根を寄せた。 それにしても、こうも会う人会う人に、Ωだ、と言われると本当にそうなのかもしれないと疑念が大きく膨らむ。 結空の胸に大きな不安が押し寄せた。

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