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第12話
午後の授業はとっくに終わり、結空が保健室を出た時は既に下校時刻を過ぎていた。
また症状が出る前に病院行かなくちゃ……。
父さん母さんに、何て言おう。
今日学校で発情しちゃって、俺実はΩだったみたいーーーなんて、そんなこと言いたくない。
現実的なこれからのことを考えて、肩を落とし、とぼとぼと昇降口へ向かう。
すると行く先に透の姿があった。下足箱側面に寄りかかり、結空に気付いて手を上げた。
「結空」
「透。こんなとこで何してんの?帰んねーの?」
「結空を待ってたんだけど……、体大丈夫?」
「……何が?」
思わず顔がひきつった。
透は知っている?いや、でもΩのことじゃなくて、ただ単に体調が悪いと思われているだけかもしれない。
どちらなのか判断がつかず、結空は咄嗟に何のことだかわからない振りをしてとぼけてみたが、恐らくは前者だろう。
「3限の時、結空が曽根崎に抱えられてどこか連れていかれるのを廊下側の窓から見たから……」
「あぁ……そう……」
結空が曽根崎と一緒に授業を抜け出したところを、透に目撃されていたのだ。
結空が授業中に発情したことは隣のクラスにまで知れ渡っているのかもしれないと、結空はこの時気付いた。
恐らくそれを知った上で、透はここで待っていてくれたのだろう。
自分の家族にも何と説明していいのかわからず混乱した胸の内を抱え、それだけでなく、心配してくれている幼馴染にまでどう応えればいいのか。
結空は下を向いて自分の上履きを見詰めた。
「結空、取り敢えず一緒に帰ろう」
顔を上げると透が微笑んでいた。
優し気な眼差しを向けられて、結空の胸にぐっと熱いものが込み上げる。
「うん」
結空の目尻に涙が滲み、結空はそれを誤魔化すようにぱっと下を向いてブレザーの袖で目元をぐいっと拭った。
外は日が落ちかけて夕日が綺麗なオレンジ色を放つ。
結空と透は肩を並べて自転車を押しながら校門を潜った。
結空は自分の事が透のクラスにまで噂されていないか気が気じゃなくて、先にその話を切り出すことにした。
「透……俺、授業中に発情して、……曽根崎に保健室連れてってもらったんだ」
「うん。結空の匂い、こっちのクラスまで届いてきたよ」
「え……マジか……」
「うん。すごくいい匂いだった。今は大分収まったみたいだね」
「あぁ、保健室で注射してもらったから」
「注射って発情抑制剤?」
「そう、それ」
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