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第13話

「そう……」と呟いて透は何かを考える素振りを見せた。黒目を持ち上げ上の方に視線をきょろきょろと彷徨わせる。透は子供の頃からこうだった。何か考え事がある時にこういう仕草を見せる。 「それにしても透は全然驚かないんだな。俺が発情したって聞いても……」 「あぁ、うん。それは……」 透に目をやると、透は結空を見てやんわりと微笑む。 王子様のような見た目に穏やかな性格。 自分が女だったら透と結婚したいかも……、とか取り留めの無いことをぼんやりと考えて、はっとした。 急速に自分がΩかもしれないことを思い出し自覚する。 ……もしかしたら、自分は妊娠して子供を産むのかもしれない。 刹那、下腹の奥がきゅうっと疼き、体の芯に熱が生まれる感覚を覚えた。 こんなところで……? ーーーいやだ!違う、違う……、これは違う! 結空はふるふると首を横に振って体の変化を否定した。 さっき注射してもらったばかりだから、曽根崎の時のようにはならない……! 結空は体の僅かな火照りを押し隠し、ぎゅっと腹筋に力を籠めて透へ顔を向けた。 「そ、それは?」 「ごめん、怒らないで聞いてね。それは結空が子供の頃からβじゃないんじゃないかって思ってたから」 「え、……どういうこと?」 結空の足が思わず止まる。 「子供の頃から、結空は女の子と同じ匂いがしてたよ」 「女の子と同じ匂い?」 「うん。Ωみたいな強烈な匂いじゃなくて、守ってあげたいような、そんな匂い。それに結空は元気で明るくて可愛くて、……いつか俺とセックスするって、そう思ってた」 透の声が恥ずかしそうに尻窄む。 「セックスって……」 なんで?……俺と透がセックスするだなんて、子供の頃から思ってたって? 嘘だろ。そんな風に見られていたなんて……。信じられない。 俺が今まで性の対象として見てきた女と、同じカテゴリーの中で見られていたってことなのか。 結空の体がまるで発熱時の悪寒のようにぶるっと震えた。下腹の奥が先刻よりも熱を帯びてきている。 結空が何かを耐えている様子を見て、透はいち早く異変に気付いた。 「結空、保健室で打たれた注射は効き目どれくらいなの?」 「わ、わかんない。でも一時的にしか効かないから早めに病院に行けって……」 「まずいね。ねぇ結空の匂い強くなってる。この足でこのまま病院行こう。俺付いて行くよ」 「でも……」 透は結空を見て、いつかセックスすると思ってたと言った。 その言葉と、曽根崎にされたことが思い出され、足が竦む。

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