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第14話
「検査は結空の家の人と行った方がいいと思うけど、取り敢えず応急処置だったらどこか近くの個人医院でもしてくれるはず。保険証も明日持ってくるって伝えれば大丈夫だと思う。着てる制服でどこの学生か特定出来るだろうから、お金はまた後日でいいよってことになると思うんだけど……。結空、発情期って1週間続くんだよ。このまま帰ったらきっと辛いと思う」
「そっか……色々詳しいんだな、透」
βだからそんな知識に疎いのか、はたまた知ってて当たり前なのか。
自分の無知さが少しだけ恥ずかしくなる。
けれど透の次の言葉で結空が感じた羞恥心はどこかへ吹っ飛んだ。
「結空とは、いつかこんな風になる日が来ると思ってたから、これでも一応調べたんだ。ね、病院行こう」
透の目は真っ直ぐに結空を見詰める。
その目にαの欲望は滲んでいないように見えた。
俺のために調べてくれたんだ……。
真摯な眼差しだと感じとった結空は、「うん」と小さく頷いた。
透は曽根崎なんかとは全然違う。
αの権力を笠に着て、どうしようもなくなった結空を、まるで玩具でも扱うみたいに抱いた曽根崎。
透はきっとそんなことしない。
何の根拠もないけれど、今の結空はそう思ってしまったのだ。
それにこの時、頼れる人が透の他にいなかった。
「結空、自転車漕げる?」
「大丈夫」
結空は再び腹筋に力を籠めて自転車のサドルに跨がる。
結空と透は近くに内科を掲げている看板の病院へ向かった。
「はっ……はっ……」
「着いた。ここ受付終了まであと10分だ。間に合って良かった」
透が少し赤らんだ顔を結空に向けると、結空は前屈みになりながら息を荒くしている。
「結空、大丈夫?」
「うん……っ、はっ……」
まるで体温調節している犬のようだ。結空は赤い舌を覗かせて、甘い吐息を荒々しく吐き出す。
透ならどんな自分を見せたって大丈夫、とこの時の結空は立ち込めるΩの匂いも透なら包み込んでくれると疑うこともしなかった。
院内へ入ると待合室にいる人々が結空にちらちらと視線を送る。
それもそうだろう。結空は透に肩を借りて支えられながら歩き、Ω特有のフェロモンを垂れ流しているのだから。
受付の女性がすぐに結空の状態に気付き、先に来ていた患者の誰よりも早く、結空は診察室へ通されることとなった。
「学校で注射してもらってから2~3時間?」
「はい……」
「飲み薬は?」
「えっと……ちょっと今切らしてて」
「掛かり付けの病院はどこ?」
「それは……」
いや……掛かり付けの病院なんてあるわけないし、今日初めて発情したんだから……。
結空がどんどん熱くなる体でぼうっと考え言い淀んでいると、透が横から助け舟を出してくれた。
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