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第15話

「市の医療センターです。そろそろ薬をもらう時期だったんだけど、色々用事が積み重なって行きそびれたんだよな?」 「あぁ、うん。そうなんです」 「そう。わかりました。じゃあ取り敢えず3日分薬出しておきますから、必ず掛かり付けの病院でちゃんと薬を処方してもらってくださいね」 結空と透は「ありがとうございました」と診察室を出て、病院内で薬を処方してもらった。 すぐに1錠飲んで体が落ち着くまで別の待合室を借りて休むことにした。 結空と透が並んで長椅子に座る。体は重怠く、透は肩と肩が触れそうなほど近くに座るので、結空は透に寄り掛かりたくなってしまった。 いい匂い……。 透がαだからだ。 曽根崎からはもっと抗えない、強い匂いを感じだけれど、それとは違う引き寄せられる優しい香り。 結空は甘えたいのか、それだけじゃなく、曽根崎の時みたいに透ともそうなりたいのか、自分で自分が理解出来ない。 薬が少し効いてきたのか、目蓋が次第に重くなる。 透ってそういえば子供の頃からこんな世話焼きだったっけ……。 うとうとと微睡ながら、結空は子供の頃を思い出していた。 顔は今よりも男か女かぱっと見ただけでは判別出来ないくらい中性的で、同級生にオトコオンナとからかわれた時も、華奢な体が仇となり近所のガキ大将におもちゃを取られた時も、そういえば透が助けてくれたんだっけ。 透がやめろと言えば、どういうわけか、みんなそれに従った。 子供ながらにあの頃から透は格別だったなと感じていたことを思い出した。 「結空?……寝ちゃった?はぁ……可愛い、結空。頭から食べちゃいたいくらい……」 遠くで透の声がして、次に気付いた時は、自宅のベッドだった。 透が配車の手配をしてくれて、自宅まで送り届けてくれたそうだ。 初めての発情、それに伴って処方された薬の副作用で意識が朦朧としてしまったらしく、病院から自宅までの記憶も飛んでしまっていた。 自宅には校医から連絡があり、翌日、母に連れられて市内の総合病院を受診した。 血液検査、尿検査、肛門からの視触診、腹部エコー。 全部が終わるまで一日がかりだった。 結果は予期した通り、『急性転化型希少Ω』と診断された。 家族は突然のことに狼狽えたが、人口が減り続けている昨今、うちは孫をたくさん授かれると両親は結空の転化した性を受け入れてくれた。 妹のあいりは結空を見て顔をしかめ、「兄貴のくせにムカつく……あたしよりイケメンと結婚とか、男のくせにあたしより先にデキ婚とか、絶対許さないからね」と憎まれ口を叩いたが。 家族の受け入れには救われる思いだったが、Ωがこんなにも特別で、結空の学校生活がいつもと違うものになるなんて。 この時の結空はまだ知らなかった。

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