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第17話

「俺、女じゃない……」 そんな風に意識しないでほしい。 友人として過ごしてきた2人に、色の滲んだ一線を引かれ結空の目の前が暗くなっていくようだった。 「わかってるよ。でも、なぁ」 渡辺が太田に同意を求めるように顔を向けた。 「昨日より匂いは目立ってないけど、でも」 「でも、……何?」 結空は一気に友を失ってしまったかのようだった。 どこか変わってしまった渡辺と太田に向ける目がじんわりと潤む。 「あ、泣くなよ。もう。抱き締めたくなる」 「それくらい今までだってしてただろ……。いいじゃん、ハグしてよ……」 ぽろんと結空の目から大粒の涙が零れ落ちて、それを合図に渡辺に腕を引かれ胸の中に抱き留められた。 友の温かさを感じて自分の居場所はまだあると思いこみたかったのかもしれない。 「もう何なんだよ……。Ωってこんなに……くそっ、矢萩、お前どうしちゃったんだよ」 「え?」 抱き締められたかと思うと両肩を掴まれ引き剥がされる。 渡辺の苦しそうな表情が見えた。 「昨日よりはましだし薬飲んでるんだろうけどΩの匂いぷんぷんで、……矢萩からすれば不本意かもしれないけど、俺にはすごく可愛く見えるんだ。っていうか今ので勃った」 「勃ったって……嘘だろ」 「嘘じゃない。……だから、ちょっとこっちが意識するくらいは矢萩も我慢しろよな」 結空は二の句が継げず頬に涙の跡を残して口を噤んだ。 ーーーショックだった。まさか目覚めたΩ性のせいで友人関係が変に捻じれてしまうなんて思ってもみないことだったから。 結空は自分の席へ戻ろうと下へ向けていた視線を戻す。すると教室中の視線が結空へ向けられていることに気付いた。結空と目が合いそうになると皆さっと視線を逸らしていく。 まるで自分だけが普通ではない異質なものだと言われているようだった。 女子生徒からは「男のくせに」と、ひそひそ心無い結空を誹謗する声が聞こえ、胸を槍で突かれたかのように心が痛み、頭からさぁっと血の気が引いた。 しんと静まり返ってしまった教室にαコンビの田所、金子が結空に声をかける。 「矢萩、そっちが辛いならこっちに来いよ」 「……行くわけねーだろ」 「矢萩、あいつらのところ行くくらいなら俺達の方がまだ安全。こっちにいろよ」 田所、金子vs渡辺、太田 で結空を巡るファイトが始まりそうになり、「男同士で男を取り合うとかΩって最低~」と女子の声も徐々に大きくなっていく。 βの友人ですら自分に欲情する。その事実を見せつけられてショックを受けているのに、どうして危険なαの奴らと……。結空は、はぁっ……と溜息を吐いた。

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