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第18話
始業のチャイムが鳴り、担任が出欠をとっている最中、教室の引き戸が開けられて曽根崎が顔を出した。
確実に遅刻している筈なのに、悪びれることもなく堂々と歩き、ガタンと音を立てながら椅子を大きく引いて着席する。
一番後ろ窓際の席が曽根崎の席だった。
曽根崎だ……。
結空の体がぴくりと反応した。
目を向けなくても曽根崎だとすぐにわかる。
圧倒的なα独特の存在感。
金子や田所よりも、更により強くその存在を体が感知した。
カタカタと手が震え、心臓がバクバクと音を立てる。
曽根崎とのあの時間はもちろん愛ある行為ではなかったし、しかし一方的に力で捩じ伏せられたものでもなかった。
けれど結空の中で、曽根崎とのセックスは恐怖そのものだった。
手が震えるのはそのせいだ。
もし、この間みたいなことになったら?
いやでも、ちゃんと薬は飲んできたし、いざという時の為の避妊薬も……強制的に処方された。
だから大丈夫。
ーーー大丈夫。
授業をやり過ごし、授業の合間の休み時間も机にかじりついたまま、誰と話すこともなく昼休みを迎えた。
いつもは渡辺・太田と過ごす昼休み。
結空に接触しただけで、渡辺は欲情した。渡辺はβだし結空は発情抑制の薬を飲んでフェロモンを抑えている筈なのに。
太田だってわからない。
もうあの二人とは一緒に過ごせない……。
……Ω性のせいで、俺ぼっちじゃん……。
昼休みを誰と一緒に過ごすとか、そんなことはもう考えられなかった。
教室でぽつんとしていても皆結空を避けていく。まるで腫れ物扱いだ。
もう昼飯なんか食べなくていいから、帰りたいな……。
コテンと机に頭を横にすると、ふわんと嗅いだことのある花のような香りが漂って、目の前に曽根崎が座ったのがわかった。
「こないだは悪かったな」
悪かっただなんて思うのか?
番候補に入れてやると高飛車に宣言して、俺が気絶するまで何度も突っ込んで中に出したくせに。
結空は返事なんかするもんかと思っていた。
「許さない……」
けれど、口をついて言葉が出る。
あそこまでされて、曽根崎が不良だったとしても許す気には到底ならないし、不良が恐いからと今更取り繕う必要もなかった。
「ふっ……、くくっ」
何が面白いんだ。
「やっぱりお前生意気だよなぁ」
「だったら放っとけばいいだろ」
「放っとけねぇ匂いがしてるんだが」
「薬は飲んだよ」
「ふうん……。発情そのものは抑えても、フェロモン抑制の効果はあまりなさそうな薬だな」
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