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第19話

「え……」 「医者に言って薬変えてもらえよ」 「変えてもらえって……何種類も薬あるのか?」 「ある。どうせ初めてだから弱い薬から使って徐々に体を慣らしていきましょう、とか言われたんじゃねーの」 「い、言われた……」 「今の薬じゃ、自分の発情はそらせてもフェロモンが抑えきれてないから、βもαも匂いに敏感な男は引き寄せられる。自分を守りたいならどっちも抑えられる薬を処方してもらうんだな」 「……」 不本意ながら曽根崎に感心してしまった。 覚醒したてのΩである結空は、Ωがどういう生き物なのか基本的なことをまだ調べられないでいた。 何分急なことだったし、慌ただしかった上、体力も相当削られて、いつも過ごす夜の自由な時間は睡眠に持っていかれてしまったからだ。 なんにせよ、曽根崎は結空にアドバイスを施した。 「教えてくれてありがとう」 突っ伏していた頭を持ち上げて曽根崎と顔を合わせる。 二重の整った双眸とかち合い、どくっと心臓が大きく鳴った。 アーモンド型の綺麗な形をした眼。目尻はつり上がり気味できつい印象を与える。 整えられたかのように見える眉は、若干細めで軽薄そうだ。 高い鼻筋と、どちらかというと薄目の唇も、軽そうに見える。 それなのにどういうわけか目が離せない。 結空は自分が曽根崎に見惚れていることに気付かなかった。 やおら無言で曽根崎が手を伸ばし、結空の頬にその手を添える。 「……へ?」 「んな目で見られたら、誘われてんのかと思うじゃねーか」 「なにが……」 誘うなんてそんな恐ろしいことする筈がない。 でもその手を振り払うことが出来ないのは、曽根崎がαだからなのか。 結空の視線は、接近する曽根崎の鼻先と唇を行ったりきたり。 「目線がやらしいんだよ、矢萩」 「やっ、やらしいって……、んっ」 キスされるのかと無意識に期待していたが、曽根崎の唇は頬を掠め、結空の右耳を甘く食んだ。 「や、ちょっと曽根崎っ、んやっ」 結空は両手で曽根崎の肩を押すが、力が足りないのか、それとも曽根崎に遠慮しているのか、はたまたもっとそうされたいのかわからない程弱い力だった。 耳元でぴちゃりと音を立てて耳朶を唇に挟まれ舐められる。 ぞわぞわと背中から尻にかけて甘い痺れが走り、結空は腰を僅かに揺らした。 曽根崎なんか嫌いだ。 自分を手籠めにしたし、あれは愛のない暴力そのものだった。 なのに……。 結空はこの時、曽根崎と、繋がりたいと思ってしまった。

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