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第21話
曽根崎と透は一頻り無言で視線を交わし合い、透が先にふいっと顔を逸らした。
「行こう、結空。お昼食べた?」
「え……まだ」
「俺パン多目に買ってきたからそれ一緒に食べよう」
「う、うん」
訳もわからず曽根崎にそんな気にさせられた。けれど、曽根崎だって結空と同様、そんな気分だった筈だ。
そこへ急に現れた透が結空を横取りした形になったのだから、曽根崎は間違いなく面白くないだろう。
結空は曽根崎と透の顔色を窺い、目をきょろきょろとさせる。
「結空」
曽根崎を気遣うような視線を送る結空を咎める透の声。
結空を連れ出すには最高にドンピシャなタイミングで現れたけれど、透が来なかったらどうしていたのだろう……と結空は曽根崎を再び見詰める。
曽根崎は依然、剣呑とした目で透を睨んでいたが、やがてばかにしたように口角をくっと上げた。
「月岡だっけ?お前矢萩の何?保護者か何かか?」
「俺は……、結空の幼なじみだけど……。それが何か」
「へえ、幼なじみね。じゃあそいつこっちに渡せよ。そいつは俺の番候補なんだ。俺の将来がかかってんだよ。で、これから愛を深めましょーって時に邪魔すんな。幼なじみの月岡クン」
「ちょっと、曽根崎!」
態とらしく透を煽る物言いだった。
曽根崎の将来に自分が関わるなんて有り得ないし、何よりここから自分を助け出そうとしてくれた透が気の毒だ。
そう思っていても、曽根崎の言葉は結空の体を火照らせる。
“番”
その言葉は魔法のように結空の体を縛り付ける。
怖い……!
「生憎だけど……結空と番うのは俺だから。結空は俺の、運命の番だよ」
「と、透!?」
「……」
「わ、ちょっと、透、下ろせよっ」
「ちょっと黙って」
眉を潜める曽根崎を横目に、結空は透にひょいと持ち上げられて、子供が抱っこされるように教室を出ることとなった。
教室中の視線が結空に突き刺さるようだった。
透はどこへ向かうのか人目も気にせずズンズンと廊下を早足に進んでいく。
「透っ!下ろせって」
「だめだよ」
「歩けるから!」
「ダメだ!!」
「なんで……?」
「結空が男を誘うから」
「誘うって……」
冷たく言い放たれて、ほんの少しの間放心状態に陥った。
結空が男を誘うから。
透の言った言葉が頭の中でリフレインする。
脳内で何度もその言葉を反芻するうちに、次第に沸々と怒りが湧いてきた。
好きでこんなことしてるわけじゃないのに……。
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