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第26話

結空はハフッと息を吐いてくったりとした身体を透にすっかり預けきる。 「結空?……平気?少し落ち着いた?」 「うん……ごめん……。俺、こんなつもりじゃ……、とおる、ごめ……眠い……」 Ωになりたての体がまだ安定していないのだろう。前も後ろも血液が下肢に集まり達した今、結空は急激な眠気に襲われていた。 体が、瞼が……重い。 「いいよ眠って。こんな体じゃ午後の授業は無理だ。……皆に襲われちゃうよ」 赤ん坊を寝かしつけるように透は結空の背中をトントン……と優しく手のひらでタップする。 結空は密着した透の体温と、体育倉庫の窓から降り注ぐ太陽の温かさに抱かれ、透の腕の中、胸に頬を押し付けて、透の鼓動を感じて目を閉じた。 その後、透によって保健室に運ばれ校医から自宅への連絡により、結空は早退することとなった。 「今回も非常時と判断して発情抑制の注射を打ちました。このまま病院へ行かれてはどうでしょうか?恐らく薬が合っていないのだと思われます」 「わかりました。ありがとうございます」 結空は母親に連れられて、早退後その足でかかりつけの病院を訪れた。 Ω転化が突然で不安定だったことに加え、成長期真っ盛りに訪れたその発情の力は強く、先に処方した薬では医者が想定していたよりも効きがいまいち良くなかったのだろうと診断された。 処方されたのはワンランク上の強い薬だった。 寝る前に1錠で良かった薬は、1日3回服用しなければならないものに変わった。 回数が増えた薬の服用は煩わしいけれど、それよりも……。 結空は会計を済ませる母親をじっと見詰めた。 Ωに対する薬は一部保険が適用されておらず、財布の中から母親が万札を数枚取り出すのを見て、結空はとても心苦しく、居たたまれない気持ちになった。 「母さん……ごめんね」 自宅へ帰る途中、母親が運転する車の助手席で結空が呟くように言った。 「結空は何も悪くないわよ。人間が減ってきている中で、結空は進化したってことじゃない。すごいことよ」 苦し紛れに慰められ、気を使われていると肌で感じた。 それだけでなく結空を産んだ張本人が一番責任を感じているのかもしれない。 自宅へ戻ると結空はパソコンを立ち上げ、Ωについて調べることにした。 現在日本で確認されているΩの人口は全体の1割しかおらず、その半数がレイプなどの性犯罪に巻き込まれていることがネットニュースでは大きく取り沙汰されていた。また、結空も目の当たりにした、 保険非適用である医療費について。貧困家庭にΩが産まれやすいという統計が取られており、医療費を払うことが出来ず発情抑制剤を諦めるケースもあると新聞で知った。

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