28 / 145

第28話

結空は自転車を降り、道の端に停めた。 サイクリングロードと河川敷を仕切る手摺を飛び越えて、草原に足を踏み入れる。 手入れされているのだろう。 足元の雑草は同じ高さに生え揃っている。 雲ひとつない秋晴れの下空気も清々しく、結空は一つ深呼吸してその場に仰向けで寝転んだ。 これからどうすればいいんだろう。 平穏無事に過ごしてきた高校生活は一変してしまった。 全ての元凶は自分の体だ。 この先、上手く付き合っていくしかないとわかってはいても、元のβだった体に未練が残る。 出来るならば戻りたい。 それが叶わないことはわかってる。 けれど……。 発情期が暴走を起こして、心と体がばらばらの動きをしてしまったのが、怖かった。 しかもクラスメイトの曽根崎と。 透とも、そうなりそうなところまでいってしまった。 このままじゃ、いつか本当に妊娠してしまうのかもしれない……。 結空はごろりと横へ寝返りを打つ。 そうならないために、薬を飲んで発情期を抑えるしかない。 だけどその薬は高いし、今のままじゃ親に相当負担をかけてしまう。 そうだ。働くか。アルバイトでも薬代の足しになれば……。 先々のことを考えて頭の中をぐるぐるとさせていたら、暖かい陽気も相まって次第に瞼が重くなり、うとうとと転た寝してしまった。 どれくらいそうしていたのか、結空はケンカをしているような遠くからの怒声で目を覚ました。 「……るせーんだよ!……るのか!」 「んん……ん?」 結空は目を擦って体を起こした。 高校生だろうか。近くの橋の下で数人の制服を着用した男がケンカをしている。 「……ヤンキーの抗争?」 結空は首を傾げたが、ゆっくりと見物していると遠目からでも目があったとかで因縁をつけられそうだ。 すぐにでも移動した方がいいと思ったが、どういう訳かそこから目が離せず、結空は集団の中の一人に目を留めた。 「同じ……制服」 自分と同じ高校のグレーのブレザーにブラックウォッチ柄のボトムス。 見たことのある髪色と長身に逞しい背格好。 それだけでなく理屈じゃ語れない何かに、視線がとにかく引き付けられる。 結空にはわかってしまった。 「曽根崎だ……」 わざわざ学校から反対方向に遠くまできたのに。どうしてここまで来て、また、曽根崎と会ってしまうのだろう。 しかもケンカ中みたいだし……。 結空の表情が一気に曇る。 こんな場面に遭遇して、早々にここを立ち去る方がいいに決まってる。 けれどどうしても、そこから目が離せなかった。

ともだちにシェアしよう!