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第35話
はっ、はっ、と荒い息を吐きながら首を少しだけ持ち上げる。すると曽根崎が腰に伏せていた顔を上げた。
曽根崎の喉がコクリと上下に動く。
「は……え……?」
それを見た結空は顔を火照らせて口をパクパクとさせている。
「の……飲んだ……?」
「あ?」
「な、なんで、飲んだ……の?」
ほんと何なんだこいつ……!!
人の精子飲むとか理解不能……。
結空の目が徐々に哀れみを含むものに変わっていく。
曽根崎は赤茶色の前髪をかき上げて上体を起こした。
けれどその姿は美しい獣のようで、その色気にどきっとする。
「俺だって別にお前に突っ込むことしか考えてないわけじゃない。お前にもちゃんと男としての気持ちよさも味合わせてやりたいと思ってる。フェラ、気持ちよかっただろ?」
「……」
男としての気持ちよさを味合わせてやりたい……だと?どこまで上から目線なんだ。
俺はそんなこと頼んだ覚えはないし、ましてや曽根崎の口でイかされたいだなんて死んでも思わない。
結空はふるふるっと頭を振った。
どきっとした胸の高鳴りは気のせいだ。惑わされるな。こんな奴にときめくなんてありえない。
「この俺が、くっそまずいザーメン飲むなんて世も末だな。けど、俺はお前のだから飲んだんだぜ?」
飲んでやったぞ。どうだ!という感じが言葉の端々からびしびしと伝わってくる。
結空は言葉を返す気力もなく、下着とズボンを穿き直して自転車を停めたサイクリングロードの方へ顔を向けた。
そこにはもちろんサイクリング中の人やウォーキング中の人も見える。
秋晴れのこんなに心地いい日差しの中で、いくら生い茂る雑草が目隠しになっていたとしても、野外で淫行なんてあり得ない。
なんでこんな奴と番なんかに……。
結空は曽根崎に一瞥くれて歩き出した。
後ろから曽根崎が追い掛けてくる気配を感じたけれど、ここから先は自転車だ。
さすがの曽根崎も結空の自転車を追い掛けて走るような真似はしないだろう。
ちらりと後ろを確認すると、曽根崎はもう足を止め、結空を見ているだけだった。
「俺も後で行くからな。また会おうぜ、学校でな」
「……」
結空は眉間にシワを寄せ再び前を向いた。
停めておいた場所から自転車に跨がり、行き先を考えた。
親に余計な心配をかけたくないし、変な詮索をされるのも嫌だ。自宅には帰りたくない。
ふと、透の顔が頭に浮かんだ。
もしかしたら透が心配してるかもしれない。
学校の無断欠席も自宅連絡されるだろう。
やっぱり一度、学校行こうかな……。
結空はペダルに足をかけ、来た道を戻り始めた。
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