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第36話

学校へ向かってペダルを漕ぎ進める。 曽根崎によってまた、薬で安定していた筈の心身のバランスを崩されて、体が少々重怠い。ちょっとスピードを上げただけで息が上がる。 あの後少し休めればよかったのだけどそんな状況じゃなかった。 透に指でされた時は安心して体を預け眠ることができたけれど、曽根崎が相手ではそういうわけにもいかない。意識を失ったところで種付けされる可能性だって大いにあるからだ。 顔を合わせる度、口説かれて。 しかも軽々しく“運命の番”を強調する。 結空の体はすっかり変わってしまったが、そんな風に簡単に人を、しかも今までそういう対象として見たことのない男を好きになるなんて考えられなかった。 けれどこの体になってから、結空は異常に男性のα型を意識するようになった。 多分、誰かと番になるまで、自分はαの男達に翻弄されるのだろう。 結空はそう感じていた。 結構な距離を漕いできた。高校の門が見えてきて、遅刻の言い訳を考える。 腕時計を確認すると11時50分。あと少しで4限目が終わる頃だった。 教室には寄らず職員室で担任に病院へ行っていたので遅れたと嘘をついた。 結空はこの学校創立以来初の転化型Ωだということで扱いがよくわからないのだろう。 病院と口にしただけで、担任は「わかった。大変だったな」と頷いた。 結空がβの時は、なんとなく見た目の良さとか、学力とかで、人の第2の性を決めつけていたけれど、実際自分がΩになって、この学校はαが案外いるとわかった。 必死に受験勉強をし、背伸びして何とか入学出来たこの学校は県内でも有名な指折りの難関校だ。更に国が指定するα優遇制度が適用されている学校でもある。だから尚更将来有望なαタイプが多く在籍しているのだろう。 結空は職員室を出て教室へ向かった。 「あ!」 途中、廊下で自分が鞄を持っていないことに気付いた。 あれ!?自転車のかごに鞄入れてサイクリングロードを走って、それから、自転車を停めて曽根崎のケンカを見つけて……それで、あんなことやそんなことがあって……、自転車に戻って……。 結空は頭を抱えた。 そもそも自転車のかごから鞄を取り出すことをしていない。でもかごに鞄を入れたことは覚えているから鞄を家に忘れてきたわけではない。ということは、自転車をサイクリングロードに停めてその場から離れた隙に……。 誰かに盗まれた……? そうとしか思えなかった。 結空の頭から血の気が引いた。鞄の中には色んな物が入っていた。 勉強道具はもちろん、財布や学生証、それに今日の分の薬も。 「はーっ……」 本当についてない。結空は溜息を吐きながら肩を落とした。

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