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第38話
「結空?」
「透……!」
「やっぱり。どうしたの、こんな所で」
「透こそ。まだ授業中だろ?」
「結空の匂いがして、ちょっと気になったんだ。気分が悪いからって抜けてきたんだけど」
透だった。
窓から差し込む光に照らされて、透の薄茶色の髪がキラキラと輝いている。
透は結空の匂いに敏感で、今来たばかりの結空に気付いたという。
薬を飲んでいても、透と曽根崎には結空のΩフェロモンがわかるらしい。
この時の結空には何故か透が眩しく見えて、どきどきした。
それがどんな気持ちなのか考えたくなくて、意識的にそこへ蓋をする。
こんなの変だ……。
ついこの間まで、透はただの幼馴染で友達だった。
今はそう呼べるのかわからなくなってしまったけれど。
「結空?どうしたの?学校に来たばかりだよね?」
「あぁ、うん。けど、……実は鞄なくしちゃって。財布とか学生証とか、昼の分の薬も入ってるし探しに戻ろうかと」
「そう。落とした場所がわかるなら警察に届ける前に探した方がいいかもね。俺も手伝うよ」
「でも授業は?いいのか?」
「うん。体調不良で早退ってことにする。友達にうまく言っておいてもらうから大丈夫」
「そっか……」
透は自分とは違って皆に慕われ友達も多い。普段が真面目だからこそ疑われないということもあるのだろう。
それでもやはり申し訳なく思った。
「ごめんな」
「大丈夫だよ。結空の為なら、たとえ火の中水の中ってね」
首を軽くこてんと傾げてにっこり笑う透。
結空は顔の火照りを隠し切れず、下唇を噛んで透を見詰める。
「結空……」
透が結空の肩に手をかけて腰を屈めた。
次第に近付く透の顔。
優しげに整っていてきれいだな……と思っていたら、ふにゅ、と結空の口に透の唇が軽く押し当てられて離れていった。
「……!透!」
今の、キス……!?
結空は慌てて両手で唇を押さえる。
キスされたのだと数秒遅れて気が付いた。
「隙ありーっ」
そう言って透が笑う。
無邪気な笑顔を見せられるとそれ以上、何も言えなかった。
探し物を手伝ってもらうんだし、これくらい……まぁいいか。
そんな風に思う割に、胸のどきどきは消えることなく継続中。
なにこれ。
俺の中に、透を好きな女でもいるみたいだ。
気持ち悪い……。
心で悪態をついたが、透を見て黄色い声を上げる女子の気持ちがわかった気がした。
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