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第39話
結空と透はその後一緒に校舎を出て駐輪場へと足を向けた。
右も左も自転車が何台も停めてありその間の通路で立ち止まった。
前方から向かってくる長身に広い肩、赤茶色のショートヘアとモデルのように長い手足。見知ったシルエットに動きが止まる。
「曽根崎……」
途端結空の表情が険しいものに変わる。
無理矢理キスを奪われて、性器を口に含まれて。
つい先刻のことだ。生々しくその感触までもを思い出し、結空は体を震わせた。
嫌なのに。嫌だった筈なのに。今でも嫌悪感でいっぱいなのに、結空の下腹がきゅうっと疼いた。
結空はまるで寒さを凌いでいるように、背中を丸め両腕で腹を抱え込む。
もう……!しっかりしろ俺の体!あいつは運命の番なんかじゃない!!
あいつを助けるような真似をしたから、鞄は無くすしファーストキスは奪われるし、他にも……。
とにかくあいつが原因で散々な目に合ってるんだ。何か返してもらわないと割に合わない。
結空はキッと目元を釣り上げて曽根崎を見詰める。
最初は怖かった曽根崎が、今はあまり怖くない。
透のような王子系にイメージ転向してもいいという発言で結空のΩ性に翻弄されていると知ったから。
ただ強引に実力行使してくるところは、危険極まりないけれど。
「結空?大丈夫?」
「うん。透ごめん……ちょっと俺、曽根崎のところ行ってくる。元はといえばあいつのせいなんだ。あいつにも手伝ってもらうから」
「え、ちょっと待って結空」
透の制止する声を聞きながら結空は丸めていた背中を伸ばして曽根崎の方へと歩き出した。
曽根崎もまた結空と透の存在に気付いておりこちらへ向かって手を上げた。
「よお。こんなところで何してる。月岡と2人でふけんのか?ヤるなら俺も混ぜろよ」
「そ、そんなんじゃない!……俺、あそこの河川敷で鞄を無くしたんだ。あんなところでケンカなんかしてた曽根崎のせいだ。あの鞄には財布も学生証も薬も入ってた。無いとすごく困るんだ……。これから探しに行くんだけど、手を貸してほしい」
「はぁ?んだよ、めんどくせーな。どんくせーのは顔だけにしろよ……ったく」
ぶつぶつ文句を言いながらも曽根崎は自分の自転車をそそくさと取りだしている。
どうやら手伝ってくれる様だ。
広い河川敷。手は多くあった方がいい。
「結空、後ろ乗りなよ」
「いいの?」
「もちろん」
「ありがと、透」
「どういたしまして」
正直有難かった。体調が不安定なのに加え、これ以上体力を消耗したくなかったからだ。
以前から、透は結空にとって、いい奴、だった。
Ωに転化してからはそこに輪をかけて優しくなった。
透も結空のΩ性に踊らされているのだろうかと考えると、少し複雑な気持ちになる。
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