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第41話
透が自転車を止めた隙に、結空は荷台からひょいと降りる。
「透、乗せてくれてありがとう。俺あっち探してくる」
「結空!あんまり慌てないで!転ぶよ!」
「大丈夫大丈夫」
透に手を振り小走りに駆けて、川の真横まで下りて行く。
透は優しいけど結空に対してここ2日程、過保護気味だ。
結空の体の変化を考えれば仕方ないのかもしれないが、なんだか母親みたいだなと思って苦笑いした。
曽根崎が探しているところから反対方向に結空は足を進めた。
足元の草は同じ高さに切りそろえられ、大体くるぶしの所まで丈があった。
埋もれて鞄が見えなくなっているという可能性もありそうだ。
透も自転車をサイクリングロードの傍らに停め、結空と曽根崎の間周辺を探し始めた。
3人で探せば1人より、2人よりもきっと早く見つかるだろう。
鞄がここに落ちているのが確かならば、だが。
捜索を始めて15分。
結空は川の流れに押されて浮き沈みを繰り返している鞄を見付けた。
紺地に白のパイピングが施された帆布のショルダーバッグ。
恐らく結空のもので間違いないだろう。
肩紐部分がちょうど大きな石の突起部分に引掛り、そこで鞄は留まり浮遊している。
「あった!!」
結空の声に透と曽根崎の2人が駆け寄ってくる。
だが2人の到着を待ちきれなくて、結空は鞄に手を伸ばした。
もう少し結空の腕が長ければ届く距離だ。
川底は見えているので浅いとわかる。落ちても別に問題ない。
そう思ったからか、結空は思い切り上半身と腕を伸ばす。
「……あと、ちょっと、ん……」
指先が石の突起に掠りそこへ手を着こうと考えたが、結空はバランスを崩し体がぐらっと大きく前へ傾いた。
「……!!」
頭から落ちる!!
瞬時に自分がこの後どうなるか想像して目を閉じた。
川の冷たさ、濁った水、石や川底へ頭をぶつける衝撃。
色んなことを覚悟していたが、想像していた衝撃は訪れず、結空は後ろから腹を抱えられ川への転落を免れた。
「っぶね」
「あ……曽根崎」
「お前この汚ねー川ん中泳ぐつもりかよ」
「……ご、ごめん」
曽根崎が結空の耳元ではぁっと溜息を吐いた。
結空は曽根崎に後ろから抱きかかえられる格好で助けられたのだ。
咄嗟のことに心臓が口から飛び出そうになった。
無意識に結空の手が曽根崎の腕をぎゅっと掴む。
透も驚いた顔で寄ってきて、結空は申し訳ない気持ちになった。
「大丈夫!?」
「う、うん……ごめん」
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