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第42話
曽根崎はすぐに結空の体を地面に座らせ川の中へと目を向けた。
「あれか」
「どれ?あ、確かにあれは結空の鞄」
透も身を乗り出し川を覗き込む。
「取ってくるからちょっと待ってろ」
曽根崎は自分の足元が汚れることもいとわない様子で川の中へパシャと音を立て入っていった。
「え……曽根崎!?」
「あ!抜け駆け!俺も行く!」
「透!?」
透も曽根崎を追いかけてスニーカーのまま川の中へ下りていく。
「あ!お前何で来るんだよ」
「いいじゃん別に。俺だって結空の役に立ちたいんだよ」
「こんなこと二人でやっても意味ねーだろ」
「そんなことない!結空に誠意を示したいんだ」
「うるせー」
「曽根崎こそ」
2人は何かごちゃごちゃと言い争いながらも、石に引っ掛った鞄を引き上げる。
鞄が持ち上げられた瞬間、だばだばと布地に含まれた水が滴り落ちて、2人の制服を濡らした。
何故か険悪そうな顔をしたまま、曽根崎は肩紐部分を、透は鞄本体の方を手に持ち結空の方へと戻ってくる。
そんな二人を見つめる結空の胸に何かぐっと熱いものが込み上げて、結空は無言で腰を上げた。
川縁で二人に向かって手を伸ばす。
「ありがとう」
「礼なら体でくれてもいいんだぜ」
「曽根崎!」
透が曽根崎を咎める声がまた、母親を彷彿とさせる響きで、結空はぷっと吹き出した。
もしかしたらこの2人、実は気が合ったりしないかな。
仲良くなればいいのに。
結空はそんな事を思ったりした。
「ふふっ……」
「何笑ってんだよ」
「そうだよ結空。早く鞄の中身確認しないと」
「あぁ、うん」
結空は2人を引き上げてびしょ濡れになった鞄を受け取った。
泥や葉っぱが付いていて、とても素手で触る気にはなれなかったがそうも言っていられない。
こんな汚いものを、この2人は奪い合うようにして拾ってくれたのだから。
結空は鞄のフラップを開けて、ファスナーを引っ張る。
中に入れてあった教科書類はもちろん全滅。それよりもっと大事なものを確認しなくては。
鞄の内ポケットに入れておいた発情抑制剤だ。
中の小さなファスナーを開け、内ポケットを確認する。
「……っ、あった……」
アルミシートを小分けにした発情抑制剤が1錠。確かに内ポケットに残っていた。
「薬あったんだ……!よかった!!財布は?」
「えっと……あ……中抜かれてる」
財布はあったが案の定中身が空だった。
「あとは?」
「あれ……学生証がない」
ファスナー手前のポケットに入れっぱなしだった気がするが、いくら探しても学生証は出てこなかった。
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