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第43話
鞄から落ちて川に流されてしまったか、それとも財布の中身同様何者かに盗まれてしまったのか。
恐らく流されてしまった可能性が高いとは思うが、もし盗まれたのだとしたら、相当気味が悪い。
ここは、ただ流されただけだと思いたい。
「学生証っつっても写真と学校名くらいしか載ってねーだろ。こいつの顔写真見て学生証盗もうとかありえねー」
「そうだろうけど……失礼な奴だな」
「そうだよ。結空は可愛いよ。写真もいいけど実物見たらあまりの可愛さに誘拐されるかもしれない」
「透、それはない」
「まー何にしても取り敢えず薬が見つかったんだから一件落着だろ」
「うん。2人とも、どうもありがとう」
結空より先に透と曽根崎が腰を上げた。
「結空」
透が結空へ向かって手を伸ばす。
「ん」
同時に曽根崎も結空へ手を伸ばした。
透と曽根崎は嫌な表情で顔を見合わせ更にぐっと手を差し出した。
結空を引っ張り立たせるつもりらしい。
誰よりも先に結空のΩに気付いていた透。
それを追求することなく、ありのままを受け入れてくれた。
見た目の印象はまるで王子様。穏やかで優しくて、一緒にいると安心する。
きっと透とはこれから先も、どんな形かわからないが、繋がっていくのだと思う。
一方曽根崎は粗雑で荒々しく、結空を強引に抱いた男だ。
だけどあの時のことは責められない理由があった。
結空も曽根崎を欲したことに違いないし、どういうわけか結空の体は曽根崎に過剰に反応する。これが何を意味するのか、結空は知りたいと思っている。
あなたはどちらを選びますか?
まるでそう問われているように伸ばされた2人の手。
結空は迷わず両手を伸ばした。
本能が結空を動かした。
ーーーほしい。
この時結空はΩの血に従順で欲張りな自分を認識してしまった。
αの2人に引き寄せられるのを、体のどこかで感じていたのだ。
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