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波乱のクリスマス
結空の鞄紛失事件から2ヶ月余りが経過し、季節は冬。12月を迎えた。
結局あの時見つからなかった学生証は恐らく川に流されてしまったのだし、抜き取られた現金はどう頑張っても返ってくる筈がない。
それを考えると、とても警察に届ける気にはなれず、結局無くなったものに関しては諦めることにした。
処方し直してもらった薬は先に処方してもらったものより各段に効きが良く、結空の感覚ではβの時と何ら変わらない体に戻れたような気になった。
それ以来、曽根崎とも体を合わせるような事態には陥っていない。
透とも普段通り、幼馴染としての友達付き合いが続いている。
発情期が終わると、そわそわとしていたクラスメイト達も普段通りに結空に接するようになり、居場所を失ったと思っていた結空はやっと日常を取り戻せたように思えた。
仲の良かった渡辺、太田とも以前と変わらない付き合いをしている。
とは言っても、男子が結空を見る目は獲物を見定めるような視線に変わってしまったが。
それでも曽根崎なんかと居るよりは数倍ましだった。
それに渡辺と太田は下心込みではあるが、友達のよしみで結空をガードしてくれた。
「はー、もう12月かぁ。早いよなぁ。二人ともクリスマスの予定は?」
色白で若干のぽっちゃり感が拭えない太田が口を開き、結空と渡辺を交互に見る。
「俺は塾だな。年末まで冬期講習みっちりスケジュール入ってる」
そう言った渡辺がはーっと盛大な溜息を吐いた。
「矢萩は?」
「俺は、バイト……かな」
「バイト?お前塾はどうしたの?」
「えーっと……やめた」
結空の言葉に渡辺と太田が顔を見合わせる。
色々と慮るところがあったのだろう。どうしてやめたのか追求されることはなかったが二人の悲しげな表情が結空には少し重く感じた。
結空は突然のΩ転化で将来の自分が見えなくなってしまっていた。
毎月かかる薬代だけでも相当な金額だ。
それなのに高額な授業料を支払わなくちゃいけない進学塾になんて通っていられない。
この先自分が進学しても、まともな職につけるのかわからなくなってしまった今、自分のやるべきことは何なのかと考えると、今自分にできることは親の負担を減らすことだった。
「そっか。じゃあ俺と矢萩でクリスマスイルミ見に行かない?」
「イルミ?どこかすごいところでもあるの?」
「あるんだよー。シュプールってショッピングモールの並木道一帯がイルミネーションで飾られるらしいよ。それでその奥にある結婚式場の庭まで続いてるんだって」
「へぇ……。でも男2人で?なんか浮きそう」
行ってもいいけど男子高校生2人ではちょっと場違いではないだろうか。
結空がどうしようかなと考えていると渡辺が「ちょっと待て」と横から割って入ってきた。
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