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第45話
「太田ずるいなー。じゃあ俺も気合い入れて塾休むから。そのイルミとやらを一緒に見に行こうじゃないか」
「矢萩の為なら塾を休むんだな渡辺は」
太田が少し驚いた顔をした。
「そりゃまあ……。なんていうか……太田だけだとなんかちょっと心許ないなって。っていうか、まさか襲ったりしないとは思うけど、色んな面で矢萩が心配」
「心外だなぁ。俺が矢萩を襲うわけないじゃないか」
「そうだろうけど、矢萩の匂いってちょっと他と違うから。中学の保健体育で嗅いだΩの匂いサンプルよりかなーり強力だから。それにΩって周りにいないし、まぁ希少さで言えばαもだけど。だから街中歩いてたってそうそうαだとか、Ωだとか他人のことなんて気付かないだろ。だから矢萩は特に心配なんだ。βの俺達でもちょっと目がいっちゃうから」
「え……俺そんなに匂うの……?」
そういえば……、と思い出す。中学の保健体育の授業でΩの匂いサンプルを嗅いだことを。少し甘い匂いがするなって程度だったことを。
だから余計に、自分が有害物質を垂れ流しているかのように言われるのは、少しショックだった。
周りの男達を惑わせていたのは自覚した。けれど薬だって服用しているし、そこまで周りに迷惑をかけた自覚はない。
「匂い……なのかな?あれからやたら可愛く見えるから、雰囲気とか?」
「可愛い!?言っておくけどそれって男に対する褒め言葉じゃないからな」
結空はそう言って唇をぷくっと膨らませた。
すると渡辺がその唇を指でふに、と押し潰す。
「ほら、それも可愛い。可愛い仕草。俺がやったって可愛くもなんともないだろ。でも矢萩がやると可愛いんだ。だからそれってΩの本能的に組み込まれた部分なんじゃない?」
「うーん。それだけじゃなくて、もしかしたら教室は狭いし匂いが充満しやすいのかもしれないね」
「そうなんだ……。なんか……ごめん」
匂いだけじゃなく、仕草や雰囲気まで、Ωに支配されているのか……。
そう言われると落ち込んでしまう。
「矢萩は悪くないさ。謝る必要なんてないよ。ただ……ちょっと胸がざわざわするっていうか、恋に落ちそうな気分になるんだよ。太田が言ったようにここが狭くて多少Ωの匂いが充満しやすいっていうんなら、外の方が安全かもな。人込みなら特定するの大変そうだし」
渡辺と太田は冷静に結空を客観視してくれているところがあって、結空にとってそれはとても有難いことだった。
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