46 / 145

第46話

「どうする?矢萩」 「うん行こうかな。最近そういう楽しいこと、全然なかったから行きたい」 「よし、オッケー。決まり」 渡辺が指でOKと輪っかを作ってサインしてみせる。それを見て結空は微笑んだ。 渡辺と太田がその笑顔に吸い込まれそうになった時、前方から声をかけられる。 「俺達も一緒に行っていい?それ」 田所だった。隣には金子がいる。 校内で知らない者はいないと言われているαコンビだ。 結空のΩにいち早く気付き、犯されたいのかとΩを蔑んだ発言で結空を凍りつかせた奴らだった。 結空がΩ転化するまでは、ほとんど関わりがなかった筈だ。それが急に一緒に出掛けたいだなんて。 結空はこの二人に正直恐怖心をいだいている。それに不審に思ってしまった。 だが断る理由が思い浮かばない。 渡辺と太田は顔を見合わせている。 きっと結空と同じことを思っているのだろう。 「いやー……。君らが来るとなると女子が黙ってないでしょーよ……。大勢で行くのはちょっと場違いだよなぁ?」 渡辺は太田に同意を求め、太田がうんうんと頷いてみせる。 遠巻きに断ろうとしているのがわかった。 「女子なんて関係ないっしょ。俺らは矢萩がいりゃいいんだよ。なぁ金子」 「まぁ、そうだな」 どうして? まさか結空をどうにかしようとしているのかと勘繰られてもおかしくない発言だった。 「じゃあさ……、曽根崎も誘っていい?」 「えっ……?」 そう提案したのは渡辺だった。 「えー。俺やだなー。なんで曽根崎?」 田所があからさまに嫌な顔をした。 当たり前だ。あんな不良、怖くてみんな嫌いに決まってる。 マンガじゃあるまいし、河川敷の橋の下で乱闘とかするような奴とデートスポット行ってどうするんだと思ってしまう。 しかし田所のブーイングの上から声を被せ、渡辺が腕を組んで言う。 「いや……ぶっちゃけると、俺は金子も田所も信用していない。矢萩が初めて発情期に入った時にピンチを救ってくれたのは曽根崎だ。ああいう不良は意外とレディーファーストだったりする。曽根崎は変態教師から矢萩を庇って保健室に連れてってくれたんだもんな?矢萩」 「え……」 レディーファーストだとか救ってくれただとか、そんなわけあるか!そもそも俺は女じゃないし!と突っ込んでやりたいのは山々だった。 盛大に誤解されている。 けれど、まさか曽根崎に散々犯されて気を失ってから保健室に運ばれたなんて、誰にも知られたくない。 口が裂けても言えなかった。 「……うん」 結空はしぶしぶ頷いた。 「あ、ほら。噂をすれば……だぞ」

ともだちにシェアしよう!