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第47話
結空達は教室の入口へと目を向けた。結空の視線がすうっと吸い込まれる。
太々しく悠々とした態度で教室へ入ってきたのは曽根崎だった。
もうすぐ昼休みだというのに堂々と遅刻してくるあの姿には、自分には真似できないという意味で感心してしまう。
「ほら、矢萩。声掛けて来いよ」
渡辺が結空の肩をぽんと叩いて言った。
「え!?俺!?なんで!」
「矢萩の頼みなら断らないだろ」
「はぁ……」
そこにいた面々の視線が結空に集中して注がれ、結空はかっくりと肩を落とした。
本当はαの奴らとなんて一緒に行きたくない。大体どうして曽根崎を誘わなくてはいけないのか。
元はと言えば渡辺が金子達も同行するなら曽根崎も誘うと言い出したことだ。
渡辺がどうにかするのが筋ってもんじゃないのか?
結空がじぃっと渡辺を見詰める。
軽く睨んでいたつもりだったが、結空の視線に気付くと渡辺は頬をぽっと赤く染めた。
……だめだこりゃ。
仕方なく結空は曽根崎の元へと足を向けた。
曽根崎はガタンと大きな音を立てて椅子に座ったところだった。
結空は曽根崎の机の横に立ち止まり、机に指を置いて曽根崎に目を向けた。
とろり……と、曽根崎を映す結空の瞳が蕩けた。
曽根崎もまた結空に気付き、結空と曽根崎の視線が甘く絡む。
話したくないけど仕方ない。仕方ない、仕方ないと自分に言い聞かせるが、結空の本心はクラスメイトと一緒に遊べるということで少し浮足立っていた。
それだけじゃない、甘ったるい感情に、気付くまい、気付くまいと蓋をして。
「曽根崎」
「おう。……お前から話しかけてくるなんて珍しいな。俺に種付けされる覚悟ができたってことか」
「ちっ、違う!!」
「何?」
「あの……クリスマスの予定は?」
「え……」
「だから、そのっ、もし予定がなかったら、一緒にイルミネーション見に行きたいなって……」
「……お、おう」
もじもじ、そわそわと、互いに顔を赤らめながら付き合いたてのカップルのようなやりとりをして、結空がはにかんだ笑顔を浮かべる。
渡辺達にそのまま声を向けた。
「曽根崎行けるって」
「っは!?」
曽根崎が驚いた様子で机に乗せていた脚を下ろす。ガタンと大きな音が鳴った。
その音に結空はびくんと体を震わせる。
「え……やっぱりそういうのあまり好きじゃない?曽根崎イルミネーションとか見そうにないもんな」
結空はロマンチックな雰囲気と曽根崎があまりにも似つかわしくないと考えていたため、曽根崎が驚いた理由には気付かなかった。
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