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第50話

「な、なんで手なんか繋がなくちゃならないんだよ。変な提案すんなよ渡辺っ」 「そうは言ってもこいつらが納得するとは思えない……。っていうか、このままじゃイルミ楽しむどころじゃなさそうだぞ?」 「……俺のせいなの?」 結空の言葉に渡辺と太田は苦笑いした。こんな筈じゃなかった、と顔に書いてある。 その横で、渡辺と太田を除くαの4人はどことなく不機嫌な表情を隠せないでいた。透でさえ、自分以外のαに向ける視線はどことなく厳しい。 何だよこの展開。誰かと手を繋ぐとか、無茶振りもいいところだ。 結空としては4人のうちの誰かと、と言われれば、透が一番安心できて安全だと思う。 だが透を選んだところで、この険悪なムードが助長されるだけで、今日を楽しむというところまでは辿り着けないだろう。 だったら……。 「じゃあ渡辺、お前と手を繋ぐ。それでいい?」 きっとαの誰を選んでもこの状況は悪化するだけだ。 そう思った結空は渡辺の手を取った。 「え……マジで?」 結空は渡辺の目をじーっと見詰めた。 このままじゃイルミどころじゃない!!と念を込めて渡辺の手を胸元にぎゅっと押し当てる。 「う……」 結空の眼力に圧倒されたのか渡辺は諦めた様子で肩を落とし、「わかった」と呟いた。 「矢萩がそう言うので、エスコート役は俺、渡辺が引き受けることになりました……。みなさんよろしいでしょうか」 「結空がそう言うなら、俺はいいよ」 透はすぐに賛成してくれた。太田も隣で頷き、曽根崎は仏頂面で田所は舌打ちし、金子はむっすりと黙ったままだった。 「えー……反対意見がないのでこのまま進みたいと思います」 「なんか変なの」 結空がくすりと笑って、それを合図に一行は並木道を歩き始めた。 歩道に沿って大きなケヤキ並木が一直線に続く。シャンパンゴールドの電飾で飾られた並木道はクリスマスムードに包まれている。 幻想的にライトアップされた歩道は、右も左もカップルばかりだ。 「すごいきれいだね」 「うん。塾休んでよかった」 「渡辺はそればっかりだな。本当は休んだこと気にしてるんだろう」 太田の声に渡辺は乾いた笑いで返す。 「いやぁ、まさか。一回休んだくらいでついていけないなんて事態に陥る筈はないだろう」 まるで自分に言い聞かせているかのようで、結空も太田も笑ってしまった。 並木道は突きあたりの結婚式場まで続いている。奥に進むにつれて人が溢れるような混雑具合だった。

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