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第56話

結空の前にいた男が、穿いていたボトムスの前を寛げて、赤黒く猛った男根を結空の鼻先に突き付ける。 「んんっ」 「可愛い前のお口でご奉仕してもらっちゃおうかなぁ」 何をされるか想像がついて、結空は顔をぶんぶんと横に振り回避しようと試みた。 無我夢中で頭を振った。 曽根崎のように花のような香りがする筈もなく、鼻腔に流れ込むのは悪臭だけだった。 それが結空の唇に押し当てられ、同時にデニムを留めていたベルトが引き抜かれる。 どんなに抗っても、自分は無力だ。 目尻に涙が滲んだその時、前にいた男が突然姿を消した。 消したというより、結空の視界から外すように後ろから誰かに蹴り飛ばされたのだ。 「きったねー粗ちん矢萩に見せてんじゃねぇよ」 誰……? 結空が顔を上げる。目の前には田所と金子がいつもは見ないような厳しい表情で立っている。 なんで? なんででもいい。この二人は味方だ。 「おい!お前も手を離せ!この犯罪者どもが!警察呼ぶぞ!」 結空の腰と手首を押さえつけていた男も金子に凄まれ、ぱっとその手を離した。 「矢萩は俺が抱える」 金子はそう言うと、いとも簡単にひょいと結空を担ぎ上げた。 そこへ田所がハイエナのように群がる男達を威嚇して牽制した。 「通報されてーのかよ!おい!チッ!見せ物じゃねーんだ!どけ!!……で、矢萩、月岡と曽根崎は?」 「……あっちの方」 結空が指刺したのはショッピングモールの建物の方角だった。 「なんではぐれたんだよ。……まぁいいや。これ、貸しな。矢萩は俺も金子も眼中にないみたいだから、貸し作っといてやるよ」 「ごめん」 「それにしてもこの匂い、強烈だな。矢萩、率直に言わせてもらうが、孕ませたいぞ」 「…っ!や、やだっ!」 結空を担ぐ金子は冷静に見えてそんなことを言う。冗談なのか、本心なのか、結空にはわけがわからなかった。 「金子はそういうところがモテないんだよ。こいつ女子にも同じこと言うからな」 「え、最低……」 「だけど、Ωを目の前にヒートしないだけマシだろ?矢萩が惹かれてるのはあいつらだってわかってるけど……、俺たちだってお前とやりたいってこと忘れんなよな」 田所は損な役回りだと愚痴り舌打ちする。 その後、金子と田所は透と曽根崎の場所へ辿り着くまで、終始不機嫌そうに顔を顰めたままだった。 ショッピングモールの入口。 人目を引く透と曽根崎が言い争っているのが見えた。 「おい。何ケンカしてんだよ。矢萩見つけたぞ」

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