57 / 145
第57話
「結空!!」
「矢萩……」
「曽根崎、結空に近付いたら殺すよ」
殺す?曽根崎を?透がそんな事を言うなんて。
結空の知っている透はそんな物騒なことを言うような奴ではない。
優しい紳士的な幼馴染。それが透だった。
そんな透が、人に向かって「殺す」だなんて。
透の見たことのない凶暴性を秘めた一面を見て、ぞくんと腰から背筋に快感が駆け上った。
「んんっ……、っ!!」
ぱんぱんに張り詰めた性器が弾け、腰が揺れる。衣服の擦れと、α達の体臭、垣間見た透の凶暴性。
色んなものが刺激となり触れてもいないのに達してしまったのだった。
信じられなかった。
「おい!月岡、曽根崎!早くしろ!こっちも我慢できそうにない」
結空のフェロモンがどんどん濃くなり、金子が顔を顰めたまま叫ぶ。
透も曽根崎も結空に気付いていたが、駆け寄ってきたのは透だけだった。
曽根崎はどうしてこないのか。
結空が曽根崎に視線を向ける。結空の瞳に映った曽根崎は目を猛獣のようにギラつかせ、唇を噛んでいた。あまりに強く噛んでしまったのか、唇に血が滲んでいる。
我慢しなくていいのに。
俺のことめちゃくちゃに抱いていいのに……。
恐らくヒート状態に入る寸前なのだろう。
曽根崎は拳を握って自分の腿へ打ち付け「クソッ」と捨て台詞を残して結空に背を向けた。
曽根崎……。
その後ろ姿に一抹の寂しさを覚えたが、引き留めて縋りつく余裕もない。
結空は去りゆく背中を見詰めて熱い吐息を零した。
「結空は俺が連れて帰るから」
金子に担がれている結空を透が受け取る。
結空は荒くなる息を押し殺し透の胸に顔を埋めた。
透の胸から香る強い雄の匂い。結空を抱えてきた金子より、田所より、ずっと強く惹かれる香りだ。
自分を満たしてくれる曽根崎が行ってしまった。けれど透がいる。
そんな考えに及んでしまう自分を嫌悪する。でも体は否応なしに反応してしまうのだ。
あっちがダメだから次はこっちだなんて、そんなに自分は猥雑で浅ましいΩと成り下がってしまったのだろうか。
ーーー抱かれたい。
情けないと思う。はしたないと、卑しいとも思う。
しかし体は裏腹に、いや、正直だと言うべきか、中に熱い楔を打ち込まれたいと狂ったように思ってしまう。
体も心も逞しく香ばしい男根に揺さぶられることに支配されていく。
「透……」
俺を犯して……。意識が飛ぶほど、気持ちよくして……。
そう言ってしまいたい。
だけど、そんな事を言って透に軽蔑されたりしないだろうか。いや、透が優しいのは知っている。
はしたない自分を俯瞰して見る余裕があっても、体はもう止められないところまできていた。
「結空、帰ろう」
ともだちにシェアしよう!