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第59話
「結空……」
透の腕に力が籠る。
「結空に後悔して欲しくないんだ。俺は結空のことが子供の頃から好きだったけど、結空の気持ちは?発情期に体が支配されて、もしかしたら自分も好きかもって、心が勘違いすることがあるかもしれない。勘違いしたまま体を重ねてしまったら後で絶対後悔する。それにもし俺が暴走して結空に噛み付いたら?そしたら結空は俺にしか感じない体になっちゃうんだよ。仮に俺と番になったとするよ?もしもその時、俺じゃない誰かを結空が好きになってしまったら……。例えその誰かと両想いになれたとしても結空の体は報われないんだ。番以外の誰かとセックスすることは、苦痛でしかないんだって……。そんなの結空が可哀想だ。……俺、臆病だね。こんなだから曽根崎に出し抜かれるんだよね……」
透が困ったように笑って見せた。
ツキン……と胸が痛む。そんな顔で微笑まないで欲しかった。
「透……」
「とりあえずホテル探そう」
透は結空を抱えたまま、コートのポケットからスマホを取り出し周辺を調べ始めた。
片手で自分を支えて、片手でスマホを弄るのだから、相当な腕力だ。
結空は知らず知らずのうちに、うっとりとした眼差しで透を見つめる。
「空きがない……クリスマスだからだよね」
「そっか。透ごめんな、俺重いよね」
「大丈夫だよ。こんな日の為に鍛えてきたんだ……って言ったら引く?」
「ううん、引かない!俺は好き。透……」
結空が透を見つめる。熱を帯びた視線を透が受けとめ、その瞳の奥で静かに燃える炎を見た気がした。
「透……」
「……」
「キスしたい……」
「……うん」
結空が透の首に手を回して唇を寄せる。
不思議な感覚だった。
もちろんセックスだってしたい。死ぬほどしたい。
だけどキスもしたい。唇から伝わる透の熱を感じたい。肌と肌を触れ合わせるのと同じように。
結空の唇に透が口を少し開いて応える。
ゆっくりと重なった唇からは甘く懐かしいような優しい匂いがした。
それだけでなく逞しく頼れる男の匂いも。
やっぱり透としたい……。
頭の中がそればかりだと思われるのが恥ずかしく思う。だけど結空の力ではどうすることもできない。
それがΩの発情期なのだ。
少しだけ舌を差し込んで透を誘い出そうとした。
しかし透はそんな結空の舌を軽く吸っただけで唇を離してしまった。
「透……」
「ごめん。結空とキスなんかしたら俺も理性が保てそうにないから……」
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