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第61話
透の肩口に顔を埋めたまま、駐輪場まで抱えてこられ、地面にゆっくり下ろされた。今にも膝が崩れそうなほど、腰の辺りにずんっと重く色情を帯びた欲望がまとわりついている。
透が自分の自転車を取り出しながら言った。
「自転車、後ろに乗れそう?」
「あ……うん。でも、お尻濡れてるから、汚しちゃうかも……」
場をわきまえず不謹慎なほど、Ωの発情期は嵐のようにやってきて、傍若無人な振る舞いでフェロモンを撒き散らし、ところ構わず、誰彼構わず、男を誘惑する。
こんなところで不本意に尻を濡らすなんて。
激しい自己嫌悪に陥りそうだった。
羞恥心は膨らむし、罪悪感さえ感じてしまう。
いけないことをしているかのように、結空の声がどんどん小さく尻すぼんでいく。
「そんなの、全然気にしなくて大丈夫。むしろ結空のやらしい匂いがして、俺は嬉しい」
「やっ……やらしい匂いって……。透……変態っぽい……」
「そりゃまぁそれなりに。結空のストーカーみたいなもんだから、俺」
透がにっこり笑い首に巻いていたマフラーを自転車の荷台に巻き付けた。
そんなことをしたらマフラーが汚れてしまうだろう。
だが、そんなことは透の憂慮することではなかったらしい。
「直に座りするよりこうしておけば多少の振動は負担にならないかな?……こんな時、車、運転できればよかったのに。そうすればいつでも結空を送り迎えできる。結空をしっかり守れるように早く大人になりたいよ」
「うん……ありがとう、透」
透の優しさが身に染みるようだった。
透が自転車に跨がり、その後ろに結空が乗り込む。
マフラー……、汚れなきゃいいけど……。
「結空、まさか落ちないとは思うけど、体調悪そうだし、しっかりつかまってね」
「うん」
結空はおずおずと透の腹に腕を回した。
頬をそっと透の背にくっつける。
やはりどこかほっとした。
自分は透と体を繋げて、その後はどうするのか。
抱かれたいと焦る気持ちの中で、本当に生涯を添い遂げたい相手なのか考える。
……透となら。
番になってもいい気がする。
ぼんやりとそう思った。
透の家に着くまで、結空はしっかりと透にしがみつき、透の体温を噛み締めるように感じていた。
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