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第72話

つい一昨日のことだ。あんなに激しく濃厚に交わって、今更どんな顔して会えばいいのか。 どうしよう、どうしよう……。 結空は自分がパジャマ姿だったことに後悔し、昨夜は風呂にも入らなかったし、頭も寝癖でぼさぼさのままだったことに落胆した。 しかしもうどうにもならない。取り繕う間は少しもなかった。 足音は結空の部屋の前でぴたりと止まり、続いてドアがコンコンと2度ノックされた。 結空の返事を待つこともなくドアは開き、結空は慌てて髪に手櫛を入れ、直せるはずもない寝癖を申し訳程度に整えた。 「よぉ。体調わりいんだって?」 「そ……曽根崎」 部屋の外からふわっと花のような香りが流れ込む。 曽根崎のフェロモンだった。 その匂いに体がそわそわと騒ぎ出すが、入口に立つ男は透でなく、曽根崎だったことに胸を撫で下ろす。 しかしどうしてここに?家の住所をどうして知っているのかとか、何をしにここへきたのかとか、様々な疑問が頭の中を駆け巡る。 「ふーん。お前の部屋、こんなんか」 「こ、こんなんって。いきなり人んち来て何言ってんだよ……。ていうか、何で来たの?」 「金曜日、渡しそびれたんだよ」 そう言って曽根崎が青いリボンのかけてある小さな小箱を投げて寄越した。 「あ、わ、おっと」 おたおたしながら結空が宙を舞う箱をキャッチしようとする様を、曽根崎が面白そうにくすくす笑いながら見ている。 「なんなんだよもう!急に投げるなよな!」 「開けてみて欲しい」 「え……」 キャッチした小箱のリボンを解いて蓋を開ける。 「……これ、何?」 中にはネックレスのようなシルバーの貴金属が入っていた。ネックレスにしてはだいぶチェーンが短く、広い幅のドッグタグのようなものがチェーンとチェーンの間に繋がれている。 よく見ると留め具の所に鍵穴のような装飾が施されていた。 「チョーカーみたいなもん。貸せ。着けてやるよ。」 「な、なんで?俺こんなの、い、いらない……!」 「あ?黙ってろ。今のお前に一番必要なもんだろうが」 結空の手から簡単にチョーカーは奪われ背後から手を回された。 首元が一瞬ヒヤリとしたかと思うと直後にはカチリと留め具を締めたかのような音がして、何が何だかわからないうちに曽根崎の手が離れていく。 「なにこれ……、首輪みたいだ」 「まぁそうとも言うけど。首輪っつーとお前、俺は犬じゃない!とか喚きそうだと思ったから、敢えてチョーカーって言ってやったんじゃねぇか」

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