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第75話
それくらい曽根崎の腕の中が心地よかった。
嫌いだと思っていた曽根崎に、こんなに甘えてしまうなんて理性を半分手放したようなものだ。
結空にもその自覚はあったが、曽根崎に触れたい欲求は余りに強く、抗うのを止めた途端驚くほど楽になった。
もっと抱き締めて欲しい。
「なんなんだよこれ……くそ……」
曽根崎は結空を抱き締めながら苦々しく捨て台詞を吐く。
結空が頬を擦り寄せた曽根崎の胸から伝わるその声音は嫌悪を孕んでいるわけでもなく、むしろいつもよりも甘酸っぱくさえ感じた。
触れられると気持ちいい。もっと甘えたい、それにもっと奥へ入って来てほしいと願ってしまう。
……αのフェロモンには抗えないのか?
……いや、違う。
αなら誰でもいいわけじゃない。
抑制剤を使ってもこんなに反応するなんてこいつにだけじゃないのか?
なんで?
「曽根崎……」
結空は縋るような眼差しで曽根崎を見詰めた。
それを受けて曽根崎は眉間に皺を寄せ困ったような顔をする。
自分でもどうしていいのかわからなかった。
抵抗を止めて素直になれば曽根崎の手が優しくなることを知ってしまった。
だけどこんなところで曽根崎に抱かれたくはない。けれど甘えたい。もっと優しく撫でて欲しい。しかし触れられれば尻が濡れるし、中途半端に愛撫なんてされたらΩの欲望が押さえきれずに最後までしたくなる。
「矢萩、口開けろ」
曽根崎はポケットから出した包みを破り中のキャンディを唇で挟む。
なに?
結空はそれをぼうっと見ながら言われるがまま、口を少し開いた。
徐々に近づいてくる曽根崎の顔。その男らしく整った顔が斜めに角度を変えた時、キスされると気付いた。
「ぅっ、ん……」
キャンディが曽根崎の口から結空の口へと押し込まれ、それが歯にぶつかって、カチ、カチと小さな音を立てた。
甘酸っぱくて美味しい。桃の風味がふわっと広がる。
可愛らしいキャンディの香りが曽根崎とは不釣り合いで、おかしいような変な気持になった。
ちゅっと音を立てながら曽根崎の唇は結空の唇を食べてしまうかのように大きく食んで離れていく。
その時に見た曽根崎の頬が微かに赤みを帯びているような気がした。
「首輪はクリスマスプレゼント。材質はシルバーのちゃんとしたやつだから。それから……、イブの日は悪かった。俺が目ぇ離した後、集団レイプされそうだったって田所達から聞いた。怖かっただろ?でも正直俺から離れたお前にも文句言いてぇとこだけど……。あと、今食わした飴は見舞い。早く風邪治せよ。ヤりてーから」
「く……首輪って、俺犬じゃないし……」
「くっ……ははっ、予想通りだな」
結空の台詞を聞いて曽根崎は笑いを堪えながら結空の部屋を出て行った。
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