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もう一人のΩ

曽根崎に触れられ、発作のように起きた発情は、何度か射精するうちに徐々に治まっていった。 迎えた翌朝、身体はまだ重く、怠い。 イヴの夜、思いがけず透と身体を重ね狂おしいほどに何度も抱かれ、その翌々日には曽根崎のフェロモンに惹かれ番となることを防止するための首輪をつけられた。勝手に他の誰かと番になることは許さない。そんな横暴な独占欲すら実は嬉しく思ってしまう。 透に抱かれて死ぬほど気持よくて幸せだと感じ、その傍らで曽根崎のフェロモンにも惹かれ、曽根崎を誘うような仕草をした。 自分は本当にただの淫乱になってしまったのだろうか……。 結空はそう考えながら制服に着替えた。 食卓につくと家族にはシルバーの首輪についてあれこれ問いただされ、勘のいいあいりに、「あの不良っぽいイケメンさんに貰ったんでしょ!透君といい、やるな兄貴!」と予想外の言葉を貰った。 曽根崎とは結空がΩに転化してからの交友関係だ。だからきっと曽根崎がαだと気付いたのだろう。 両親も結空がαに言い寄られているとなんとなく認識し、結空が幸せになれるのならば有難いと思っているようだった。 されど所詮αとΩだ。 健全に時間をかけて愛を育むだとか、そんな綺麗な付き合いを理想としている両親には悪いが、そんなものは夢物語である。αとΩの間にあるのは、即物的な欲求だけだ。 淫らなΩの本質を知ったら、きっと家族に嫌われてしまうだろう。 結空はそれが怖かった。 朝食を食べて抑制剤を飲み、「行ってきます」と声を掛けて家を出た。 家の外には透がいた。 「透……」 「おはよう結空」 「おはよ……」 「結空、体平気?」 「あ、うん。おかげ様でゆっくり休めた。もう平気……」 「そう。それならよかった」 「……っ」 どうしよう。 今までどんな顔して透と接していたんだっけ? 突然降って湧いたどうしようもない疑問が、ひどく恥ずかしくて思わず透から目を逸らす。 きっと変だと思われた。それくらい不自然に顔を背けてしまった。 だって、透が隣にいる……。 あれだけ激しく自分を逞しい腕で抱いた透がこんなに近くにいる。 それを認識した途端、結空の心臓が、どくどくと大きな音を立てて胸を打ち鳴らす。 「それにしても、まだ結空の体は不安定なんだね。放っとけない。……そこが可愛いところでもあるんだけどね」 「なんだよそれ。こっちは困ってるっていうのに」 「ごめんごめん。でもまたああいうことが起きた時は、俺を頼ってほしいな」 「……うん」 頼れるのは透くらいしかいないじゃないか。 仕方ないと自分に言い聞かせながら頷くが、結空の頬は赤く染まっていた。

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