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第78話
結空の体調が心配だからと透が自転車の後ろに結空を乗せて、本来ならばしてはいけない二人乗りで登校した。
巻きつけた腕からわかる透の胴の厚み。優しい日向のような匂い。
透に触れていると安心する。
結空は透に凭れながら、学校に着くまで、透の背中に頬を当て、うとうとと微睡んだ。
「結空、着いたよ」
「サンキュー。あーよく寝た。透の荷台最高」
「それは良かった。今度は俺を乗せてね、結空の後ろに」
「えー!透重たそうだよ、無理無理」
ははっと笑いながら荷台から降りて透へ顔を向ける。
きっと透も自分を笑って見てくれていると思っていた。
だが、自転車に跨りながら振り向きざま結空を見詰める透の視線は鋭く、冷えた視線で結空の首元で止まっている。
そこには曽根崎から無理やり与えられたアクセサリーがあった。
学校へこんなものを着けていくのはちょっと気が引けてシャツのボタンを一番上まで留め、襟を詰めてきたのだが、細い結空の首に光るシルバーの首輪はどうやらシャツの襟元にできた隙間から見えてしまったようだった。
明らかに透の優しい柔らかな表情は消え、結空のそこへ向けられた視線からは嫌悪を感じる。
それがショックだったのか、それともそんな透が怖かったのか、結空は体を震わせた。
「それ、どうしたの?ネックレス?結空がそんなの着けるなんて珍しいね」
「あ……えっと……もらったんだ」
「ふーん。学校にまで着けてこなきゃいけないような大事なものなの?」
「いや、そういうわけでは……。そ、その、外れなくなっちゃって」
「そう。こういうのって学校で許してるのは、Ωの場合だけだって聞いたことあるけど」
「え、そ、そうなんだ?」
「そうだよ。まかり間違って本来そうなるべきじゃない相手に噛まれないためだよ」
「……」
透はそう言いながら自転車を降りて駐輪場の空きスペースに自転車を突っ込んだ。少し乱暴に見えたのは気のせいではなさそうだ。
あのイブの日に見た透の曽根崎へ対する敵意。
怖いくらいに冷たい双眸。
結空の知らない透の一面は、まだ隠されているのかもしれない。
不意にすっと伸ばされた透の手に結空は思わずビクつき、後退る。
「あ……ごめん。怖がらせるつもりはなかったんだ」
「……うん」
首輪が見たいのだろうと察した結空は、これ以上透がこんな顔をしているのを見たくなくて、自らシャツのボタンを外す。
透は「ごめん」と言いながら結空の頭を撫で、そこへ手を伸ばした。
「鍵つき?これ、もしかして曽根崎からもらった?」
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