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第79話

「あ……」 どうしてこんなに冷たい顔でこの首輪を見詰めているのか、透が不機嫌になった原因が解ってしまった。 曽根崎が絡んでいると察したからだ。 透が曽根崎を敵視しているのは知っている。曽根崎も同じように透を敵視しているのかもしれないけれど、曽根崎は誰に対しても対応が雑で威圧的だ。だから本当のところはよくわからない。 でも透は違う。心底曽根崎を嫌っている。そんな気がした。 透はシルバーの太いチェーンとそこに接触する結空の首の隙間に指を2本差し入れて鍵穴を観察する。 この首輪は他の誰かから貰ったものだと嘘をついて誤魔化すことだってできる。 でもそれが嘘だとバレた時、透はどんな顔をするだろう。 しかも曽根崎絡みと知ったら、自分が嘘をついていると知ったら……。 結空は悲しむ透の顔を想像し、下唇を噛む。 嘘は吐けない。 「……そう。透が言う通り、昨日曽根崎からもらった。俺はいらないって断ったんだけどいつの間にか着けられてて。鍵がないと外せないんだって」 「いつの間にか着けられた?」 結空の言葉に透が疑いの眼差しを向けた。 そんなバカなことあるのか、と透の目が物語っている。 「そ、そう。気付いたら着けられてたっていうか」 「ふうん。結空はちょっとぼうっとしてるとこあるもんね。俺も人のことあんまり言えないけど」 「う……」 確かに……。 結空にもきっと隙があったのだろう。非があったことは否めない。 「結空」 「ん?」 「これ、ぶっち切っていい?」 「え?」 「曽根崎の所有物みたいに結空が扱われてるなんて俺には許せない。それにこんなごついデザイン、結空には似合わないし」 「え、あ……」 「でも確かにここ噛まれないようにするための予防線は必要だ。だから、今度は俺が買って結空にプレゼントしたい」 「透……」 むすっとした顔で透がチェーンを両手で左右に引っ張る。 「ちょっと……透」 透が結空に負担をかけないよう、気を配ってチェーンを引っ張っているのがわかる。 それに、普段あまり見ることのない不機嫌丸出しの表情。まるで子供みたいだと思った。 曽根崎からの贈り物に嫉妬してるのが、なんだか可愛らしい。 「ふっ……んー!……っはぁ、硬い」 渾身の力を籠めて引っ張るが、それはまるで曽根崎そのもののようにびくともしなかった。 「透、無理だよ。その鎖太いもん。鎖切れる前に透の手が痛くなりそうだ」 「でも、嫌だ」 「透」 結空の手が透の手に重なり宥めるように優しく掴む。

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