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第80話
ここでこうしていても埒が明かないと判断したのだろう。
透はため息をついて手を離し改めて結空と正面から向き合う。
「曽根崎に鍵もらうしかないか。あのさ、俺言ってなかったけど前からはっきりさせておきたいことがあって。……結空、曽根崎と寝たことあるでしょ?」
「なんで……」
誰にも言ってないし、もちろん見られてもいない。それなのにどうして知っているんだろう。
Ω転化したその日に曽根崎に抱かれた。
めちゃくちゃに。
気を失うまで。
さぁっと頭から血の気が引いていく。まるで浮気を疑われているようだ。曽根崎にも透にも惹かれている自分がいることを責められている。そう思った。
言い訳をするようだが曽根崎に体が惹かれるのは事実で、しかしそれは発情期限定のことだった。それは結空が抵抗できない体の底から湧いてくる情動。抗いたくても抗えない、コントロールできない、為す術のないものだと思っていた。
しかもどうしてそれが曽根崎でなくてはならないのか到底理解できないし、これから先もその答えが明確になるかなんてわからない。
だけどそれほどまでに強い力で引き寄せられる。
これはΩにしかきっとわからない感覚だ。病気みたいなものだと言えば、誰に咎められることもないだろう。
でも……。
それは誰にも知られたくなかったことで、特に一度体を繋げた透には隠しておきたかったことだった。
改めて寝たのかと問われた。
ということは、もう既に透は知っていたということだ。
「わかるよ。結空のことなら何でも。結空のΩは気に入ったαを前にすると急激に開花するんだ。……結空は、曽根崎が近くにいると、すごい量のフェロモンを出して、曽根崎を誘ってる」
「そんな……そんなことない。俺、曽根崎みたいな奴、好きじゃないし」
声が心なしか震える。
もうこれ以上言わないでと結空の心が叫んでいた。
結空が隠して蓋をしてしまいたかったことを、透が暴いて声にする。
それは自分でもわかっていた。
しかし、認識していたことだ、落ち着けと自分に言い聞かせても、透に直接言われた言葉にとてつもないショックを受けた。
「無理しなくていいよ。結空は悪くない」
「……」
責められるのかと思っていたが、透はありのままの結空を肯定しようとしているのか。
結空は返す言葉を探し、黙って俯いた。
「”運命の番”なんて本当に存在するのか知らない。結空、もし曽根崎がそうだとしても、その運命は俺が変えるから」
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