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第83話
隣で透も頷いている。
「それは俺も曽根崎に同意だな。結空の気持ちが偽物だったら、俺達αの結空に対する気持ちもαのせいで生まれた偽物の気持ちってことになるでしょ?少なくとも俺はこの気持ちを偽物だなんて一度も思ったことないし……そんな風に思われていたら悲しい」
「……っ、ご、ごめんっ」
はっとした。
自分だけじゃなく、透や曽根崎だってαにしかわからない複雑な思いがあるのがしれないと。
「結空、俺は結空がΩに転化したこと、凄く嬉しく思ってるよ。俺は子供の頃からずっと結空のことが好きだけど、βの時の結空よりΩに転化したことで精神的にも肉体的にも結ばれる可能性がもっと高くなったから。結空のΩが目覚めなければ、俺と結空は相変わらずただの幼馴染のままだったと思う。……だから結空のΩ転化は、神様からの贈り物だと思ってる」
透はそう言って微笑んだ。
───神様からの贈り物。
自分が忌み嫌う第二の性を、大切に思ってくれている。
腹の奥から熱いものがぐっと込み上げ瞼の裏もちりちりと熱くなり、その熱はじんわりと広がり飽和する。結空の瞳に涙の膜が浮かび上がり、たちまち溢れ出す。
結空は俯きポロポロと涙を溢した。
「……っ、ぅーっ、っ」
「お、おい月岡っ、てめーなに泣かせてんだよ!」
机に座っていた曽根崎が慌てて立ち上がり、透から庇うようにして結空を自分の腕に収める。
「え、俺そんなキツイこと言った?結空ごめんね、泣かないで」
そう言って透も慌ててスラックスのポケットからハンカチを出して結空へ差し出した。
透も曽根崎も、温かくて頼もしくて、こんなにも優しい。
2人が、好きだ。
結空の涙が止まるまで、2人は待っていてくれた。
「結空、大丈夫?」
「……うん、ごめん、っ」
ひっくひっくと、しゃくり上げながら、結空は残りの涙を透のハンカチで拭いた。
それを見ながら曽根崎が「くっそ、やりてー」と呟く。透はそんな曽根崎に胡乱な目を向けた。
「曽根崎、結空の気持ちわかったでしょ。結空を独り占めしようだなんて100年早いんじゃない?首輪の鍵、出して」
透はにこっと笑いながら手のひらを曽根崎に向ける。
目元がちっとも笑っていない、そんな笑顔を向けられて曽根崎はチッと舌打ちした。
「ちょっと待って」
「何?結空」
「首輪は必要だと思ってる。この首輪、相当頑丈だし、これは護身用に着けておきたいんだ。今は誰とも番になるつもりもないし」
結空の言葉を聞いて曽根崎がふっと鼻で笑う。単純思考な男だ。
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