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第84話
どことなく鼻が高そうに見えるには気のせいではなさそうだ。
「そりゃそうだ。丈夫でデザイン性の高いもん作るブランドに特注で作らせたオーダーメイド、一点物だからな」
「え……オーダーメイド?」
オーダーメイド品と聞いて父親が成人した際、父の両親が体の寸法を計って生地を選んでスーツを仕立ててくれたという話しを思い出す。
その人だけのその人に合う一品というのは相当高価なものなのだろう。
きっと想像以上にこの首輪も高価なのかもしれない……。
できれば返したいたころだけど、しかし背に腹は変えられないと言おうか、これにうなじを守られる安心感はかなり大きい。
大人しくこの首輪をもらってしまっていいのだろうかと結空が心を揺らしている横で透が腕組みし、相変わらずちょっと怖い顔をしている。
「一点物?つまり鍵は曽根崎以外持ち得ないということ?」
「まぁそうなるな」
「だったら尚更鍵出してよ。結空は曽根崎のものじゃない。曽根崎と番にさせる気もないし。出さないのなら力づくでも奪うけど?」
「ヤんのか?いーぜ?」
「俺も曽根崎が相手なら手加減も必要なさそうだし別にいいけど」
「あ……?」
首輪の鍵を巡り、曽根崎と透が睨み合う。不穏な雰囲気が漂った。
この2人がケンカなんてしたらどうなるのだろう。以前サイクリングロード脇の河川敷で他校の生徒3人を相手に軽々と立ち回り、圧倒していた曽根崎を思い出した。ケンカの場数は曽根崎の方が踏んでいるだろうし、そもそも透がケンカなんて……想像できない。
結空は透が怪我するところを想像し背中を凍らせた。嫌だと思った。
「待って!勝手に2人だけで話進めるなよ!け、ケンカなんて許さないからな!……曽根崎、その鍵俺にちょうだい」
曽根崎と透に挟み込まれるようにして立っていた結空だったが、嫌な空気に気圧されることもなく、2人のやり取りに口を挟む。
二人を戦わせてはいけない。どちらが傷つくのも見たくない。
「だってこの首輪、俺にくれたんだろ?だったら鍵だって俺のものだよね?」
ね?
と曽根崎の胸に手を当てて下から見詰める。
すると少し間を空けて曽根崎は眉間にぎゅっとシワを寄せた。
「……わかったよ。しょうがねーな」
「あーらら。結空が相手だとこんな感じなんだ曽根崎?ふーん」
「あ?うるせーぞ月岡」
曽根崎は不機嫌な顔をしたままスラックスのポケットからレザーの小銭入れをだし、その中から小さな鍵を取り出した。
それを無言で結空の手のひらへ置く。
その鍵はリングに2つ通されていた。
結空は透にも曽根崎にも、気持ちが傾いていることを伝えたばかりだ。
それを遥かに越える熱量で、2人ともが結空を特別に想ってくれていて片方だけがその権利を獲得できるようなハンディキャップはフェアじゃない。
結空はその鍵をリングから外し、1つを曽根崎に。もう1つを透に手渡した。
「これでスタートラインは同じだろ?」
満足そうに結空は微笑み、透と曽根崎は何とも言えない表情で目を合わせた。
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