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第85話

冬休みが始まり発情期も終えて、Ωとして感じていた学校生活での窮屈さからも解放され、気分はなかなかに上々だった。 休み中は郵便局で年賀状の仕分け配達のアルバイトに勤しんだ。 冬休みの宿題とアルバイトで慌ただしく日々は過ぎていく。 アルバイトの最終日、結空は手渡しで給料を貰った。初めてのアルバイト、初めての給料だ。 数えたら5万円弱入っていた。 これがあれば、もっと強い発情抑制剤が買える。 今月だけでも家の負担にならないように過ごせる。 結空はそう思ってほっとしたのだった。 あっという間に休みは終わり、新学期を迎えた。 新学期が始まる前に更に強めの抑制剤を処方してもらい、発情期が始まる体の兆候も掴み始めていた結空は、いいタイミングで薬を服用できた。 すると発情期の間、曽根崎が同じ教室内にいたとしても、結空が性欲に飲まれることはなかったし、発情していない結空には興味もないのか曽根崎から何かアプローチされることもなかった。 体のリズムも整い、学校生活も何の支障もなく送ることができる。 そんな普通のことがとても嬉しく思えた。 季節は春を迎え、新学期。 結空達は3年に進級した。 登校すると昇降口近くの掲示板に張り出されたクラス発表の紙を見て、生徒たちがざわついている。 結空と透は掲示板を見上げた。 「結空、何クラス?」 「俺は……F」 「え、Fクラスって就職するの?結空?」 「うん」 3年に進級すると進路別にそれぞれクラスが準備されており、結空が配属となったのは卒業後に就職を希望する生徒達が集められたクラスだった。 「……」 透が何か言いたそうにして結空を見詰めている。 Ωのせいで人生が変わってしまう。それを目の当たりにし同情したのだろうか。 哀れみの眼差しを向けられるのは嫌で、結空は努めて明るく振る舞う。 「まぁなんていうか、特に学びたいこともないんだよね。だったらお金稼いで好きなことしたいなぁって思って。透は?」 「……結空、それは結空の本心?」 「当たり前じゃん。あ、あった透の名前!Sクラス!?特進クラスかよ、すごいな!」 Sクラスへ進級する生徒は、8割が難関有名大学へと進学することでこの学校は有名だった。 そこに透の名前があった。 名前を追っていくと、そこには曽根崎の名前もあって驚いた。田所と金子もSクラスだった。 結空の知るαの男達だ。優秀なα達。その中に透も曽根崎もいるのだと誇らしい気持ちになると同時に寂しさも湧き上がる。 自分は落ちぶれてしまった。もっと色々なことを学び、進学した大学では恋人を作ったり青春を謳歌する。そんな思い描いていた理想とは違う現実にそう思い知らされるのだった。

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