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第86話

仲の良かった渡辺や太田とも違うクラスになってしまい、そこで遭遇した渡辺が結空をぎゅっとハグし「困ったことあれば声かけろよ」と言ってくれた。 ーーーFクラス。掲示板にあったFクラスの中に結空の知っている名前は見当たらなかった。 少し嫌な予感がした。 特進のSクラスは棟が違うため透とはそこで別れ、新しい教室へと移動した。 ……んー?クラス間違えたか?いや、合ってるよな、Fだよな。 教室入口の札を確認する。何度見てもFクラスだ。結空の嫌な予感が的中してしまった。 ……。就職希望、早まったか……? 厚い化粧をしたこれからお勤めですか?と言わんばかりの女子生徒達。金、銀、赤、青、色彩豊かな頭髪の男子生徒達。ここにいる殆どが曽根崎のお友達か何かに見えてしまう、そんな生徒達ばかりで、所謂素行不良の生徒達を集めたクラスだった。 よく見れば中には結空のように地味で大人しそうな生徒もいる。それを見てほっとすると同時に、向こうも結空を見てほっとしたのかにこっと微笑み席まで歩み寄り話しかけてくれた。 「はじめまして、俺月居恭也(ツキイキョウヤ)よろしく。恭也って呼んで」 「矢萩結空です。じゃあ俺も、結空でいいよ。よろしくね」 結空が笑い返すと恭也が「あ……矢萩って、あの……」と小さく言ってほのかに頬を赤くした。 恭也の様子に結空は自分の発情期はいつだっけ?と考える。 同性の異性に対して見せるような態度や仕草は結空にとっては危険信号であり、次の発情期を知らせてくれる手掛かりとなる。 それに恭也の言葉が気にかかった。 「あの、それってどういう意味?」 結空が尋ねると恭也は結空の耳に口を寄せ手で隠し、内緒話のポーズを作った。 「突然Ωになった……って噂の矢萩でしょ?」 もしかして、とは思っていたが、もしかすると全校レベルで噂にでもなっているのだろうか。 隠しておいても発情期は訪れるし首輪を着けていることだって不自然だ。事情を話しておいた方が後々の面倒が少ないのではと考えて、結空は話すことにした。 「そんな噂になってるの?参ったな」 「噂じゃなかったんだ?」 「うん。そのせいでちょっと不自由することもあるから、その時はよろしくね、恭也」 「あ、うん。こちらこそ……」 恭也はΩの人間を初めて見たと言って顔を赤くした。 悪い奴ではなさそうだ。 そして始業式当日、このFクラスに転校生がやってきた。 新しい担任が連れてきたその生徒は、教室中が目を奪われるほどの美少年だった。

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