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第89話
αの男を漁りにきたΩ。
そんなフレーズが頭の中を過ったが、Ωに対するくだらない噂は単なる嘲りの類だろう。
「……食べる?」
ルイがあまりにじっと見つめているので思わず声をかけてしまった。
「……」
「あ……い、いらないよな、人の弁当なんて。赤峰はお昼何食べるの?」
知らず知らずのうちに見入ってしまう。
ルイは同じ男なのかと思うほど、本当に綺麗で可愛い顔をしていて、女子が妬んで変な噂を立てたとしても納得だ。
ルイは結空を見て長い睫毛を揺らしながら瞬きをした。
「僕は朝コンビニでサンドイッチ買ってきたから……」
透明感のある声もなんとなく儚い感じがする。
「そう」
「……」
「……」
会話が続かない。変な間が続きそれに結空は我慢できず気付いたら口走るように言っていた。「一緒に食べる?」と。
「いいの?」
「うん。どうぞ」
そう言って結空が椅子をずらしルイの椅子を置くスペースを作った。ルイは隣から自分の椅子を持ってきて結空の隣に座りサンドイッチの袋を破る。
「小遣い節約ってさっき聞こえた」
「あぁ、うんそう」
聞こえていたのか。というより聞かれていたのかもしれない。
「矢萩の家って貧乏なの?」
「え……あぁ、まぁ、裕福ではないけど……」
唐突な質問に何と答えていいのか、言葉に詰まる。ルイはもしかして空気が読めない感じの子なのだろうか。
少なくとも結空の周りにはいないタイプである。
「この学校ってαが多いって聞いてたからお金持ちが集まってるのかなって思ってたんだけど、そうでもないんだね。矢萩みたいな普通の生徒もいて安心した」
「うん……」
返事に困った。Ωだという噂も気になったけれど、もしそうだったとしても公言する必要もないだろうし。当たり障りのない話題を探して弁当を咀嚼する。
するとまた少し間を空けてルイが言った。
「僕、Ωなんだ」
あ……。噂は本当だったんだ。
あまりにあっさりとした告白。
「……そうなんだ」
「あれ?あんまり驚かないんだね。周りにいる?いないよね。大体僕がそうだってわかると、Ωなんて初めて見たとか言われるんだけど」
ルイは表情を変えずに淡々と話す。
世間はどんな性でも平等だと謳うが社会のヒエラルキーでΩは底辺に位置している。それを知っているから結空は必要以上に自分を曝け出したいとは思わない。
こんなところでΩとばれたら男子生徒には性的な目で見られ、女子生徒からは疎まれる。
そんなことになったら非常に厄介だし、それが怖くはないのだろうか。
自分もそうだけど……。結空の心情は複雑だった。言うべきか言わざるべきか。
でもいずればれてしまうのならば言ってしまえと結空は口を開く。
「実は俺もΩなんだ」
「うそ……!ラッキー!!」
「え……?」
ラッキー?何が?
結空が首を傾げると、ルイは結空の両手をぐっと握り満面の笑みを見せる。
辺り一面に花が咲いているような、そんな笑顔だ。
ルイの笑顔はテレビで見る芸能人より数段綺麗だった。
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