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第90話
「まさかこんなところで僕以外のΩに会えるなんて!僕Ωの人って病院でしか見かけたことないからちょっと感動!」
ルイは興奮を隠せないようにして握った結空の手にきゅっと力を籠める。
結空は握られた手とルイを交互に見てその笑顔にどぎまぎとしてしまった。
「あ、えっと、ら、ラッキーって……どういうこと?」
「だって矢萩Ωなんでしょ?ということは、この学校にいるα、もちろん把握してるよね?」
「え……?」
「僕父さんの仕事の関係で近くに引っ越してきたのは本当なんだけど、この学校はαが何人か在籍してるって聞いてここを転校先に決めたんだ。もしかしたら運命の番に巡り合えるかもって……」
「運命の番……」
なんて積極的なΩ。
今の結空には考えられなかった。
ルイがαを漁りにきた、という噂はあながち間違った話でもなかったのだ。
ルイも運命の番というものを信じていた。
それにしても気になった。
瞬く間に広まったルイの噂。
転校初日に女子生徒に囲まれた時、ルイは何を話したのだろう。
運命の相手がいるかどうか見定めるのはルイの勝手だけれど、周りに敵を増やす様な態度は、この先ルイを苦しめることにならないだろうか。
俺だって……Ωだってだけで女子に嫌われてるっていうのに。
そんな結空の心配をよそにルイは目をキラキラと輝かせて話し続ける。
「だから、αの友達がいたら紹介してくれないかなぁ?ね?同じΩだったら僕の気持わかるでしょ?毎月ヒートに振り回されて、このままだとまともな恋愛も結婚もできそうにない。だから一刻も早く運命の相手を見つけ出して噛んでもらうんだ。体だけじゃなくて、ちゃんと僕の人生まるごと背負ってくれる将来有望な運命の番に」
「う、ん……」
結空は思い出す。
番になると番となった相手にしか発情しなくなり、心身の負担が大分少なくなると医者から聞いたことを。
でもルイのように番となった相手に自分の人生を背負わせるなんて、そんなことを考えたことはない。できれば対等な立場で恋愛して一緒に人生を歩みたい。でもそれは、今じゃなくてもいい。
ルイはどこか焦っているように見えた。
「矢萩は?恋人とかセフレいないの?」
「恋人……セフレって……」
瞬間的に透と曽根崎を思い浮かべた。
恋人らしいことをした覚えはないけれど、セックスはした。
発情期に飲まれ、してしまったことだ。
これはどんな関係になるのだろう。
結空が首を捻ると、ルイがくすりと笑った。
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