91 / 145

第91話

「その様子じゃ初体験もまだな感じ?矢萩って何だかいかにもΩって感じでぱっとしないもんねぇ。積極的にも見えないしね」 「へ……?」 言葉の意味を理解するまで数秒間。 親しくもないのにそんなこと普通言う? ちょっと失礼じゃないか? Ωに体する非難や嘲笑の類いに対してはある程度耐性を得た結空でも、流石に少しムッときた。 そりゃあ見た目も地味だし、身長も体の厚みも足りない。色気だって足りないと自覚がある。だけどこんな風に面と向かって、容姿について言われる日がくるなんて。 「矢萩も番探し頑張った方がいいんじゃない?僕も協力するし、一緒に頑張ろ!ね!」 ルイににっこりと微笑まれた。 悪気はないのだろうけど、そこがまた質の悪さを際立たせる。 「いや、あのさ……お」 「いやー、購買混んでて遅くなっちゃった。って、あれ?矢萩いつの間に仲良くなったの?」 俺はまだ番探しはしていない。 そう言おうとして、購買から戻ってきた恭也に声を遮られ、結空とルイは同時に恭也へと顔を向けた。 2人の視線を一斉に浴びた恭也は、ほんのりと頬を赤くする。 「矢萩が一緒に食べようって誘ってくれたんだ。一緒してもいい?」 「それはもちろん!全然構わないよっ」 ルイの美しい笑顔を真正面から見ることができないのだろう。恭也の視線が微妙にルイからずれていて、結空はますます面白くない。 「ねぇねぇ、僕も2人を名前で呼んでいい?」 「うん。いいよな?結空?」 「うん……別にいいけど……」 「やった!じゃあ、僕はルイね。矢萩が結空で、月居が恭也、でいいんだよね?」 「うん。合ってるよ」 「よかった。仲良くなれて嬉しい。これからもよろしくね」 「あぁ……うん」 「結空、もう少し話したいんだけど、今日一緒に帰れない?」 「……え」 ルイが結空と一緒に帰りたいと言う。お互いがΩ同士とわかり妙な親近感を覚えたのだろう。ちょうどいい。自分はルイのような婚活めいたことはしていないと、はっきり断るチャンスだ。 「だめ?何か用事とかある?あ、部活とか?」 「ううん、何もないよ。いいよ。一緒に帰ろう」 結空がそう言うと、ルイは再びにっこりと微笑む。 いいな……。 ルイの番に対する積極性に共感することはできないが、美しい容姿と花のような笑顔には憧れを抱く。 発情すると誰彼構わず惹き付ける自分のフェロモンはとかく下品に思われがちだけど、ルイのフェロモンはきっともっと洗練されていて、選ばれたような優秀なαだけを引き寄せるのではないかとか、そんなことを想像せずにはいられなかった。

ともだちにシェアしよう!