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第92話
下校時刻。
結空の隣でルイが上履きから真新しい白のスニーカーへと履き替える。
3年になってから下校は一人だった。
というのも、時々一緒だった透は別棟でFクラスとは違うSクラスのカリキュラムを受け、授業時間もFクラスより長く毎日7時限目まで受けているという。
だからきっとこれからも帰りが一緒になることは殆どないだろうと少し寂しく思っていた。
だからといってルイと一緒に帰りたいとは思わないが、今日のところは仕方ない……と、隣で靴を履き替えるルイを眺めた。
「俺自転車なんだけど、ルイは?」
「僕も自転車」
「そっか」
結空とルイは一緒に駐輪場へと向かった。
偶々帰宅方向が一緒で途中に少し広い公園があったので、結空とルイはそこで話をすることにした。
青々としたカシの木の下にベンチがあって、自転車を停めた2人はそこへ腰掛けた。
腰掛けるとすぐに、ルイが肩からリュックサックを下ろし中からノートとペンを取り出して結空へ向き合う。
「早速だけど名前とかクラスとか、結空の知ってるαのこと教えてくれる?」
授業の時より熱心に聞き出そうとしているのは目に見えて明らかで必死な様子が伝わってくる。
それを断ろうとしていた結空の心が僅かに揺らいだ。
「多分だけどSクラスにαの生徒は殆ど集まってると思う」
これは真実だ。
「それだけ?αって全校で何人くらいいるの?中には名前だって知ってる生徒もいるよね?勿体ぶらないで教えて欲しいなぁ」
「ごめん。俺よく知らないんだ」
けれど名前や性格、容姿についてなど、事細かく話す気にはなれなかった。
あの2人にルイの存在を知られたくない。
心のどこかでそう思っている自分がいた。
「嘘。知ってるでしょ?それとも知ってるのに知らないふり?まさか学内のαを一人占めしようだなんて思ってないよね?」
「そんなこと思うはずないだろっ……。なんで俺があんな奴ら……」
αなんて身勝手で横暴。顔を見れば孕ませたいなどと平気で言えるような人種をどうして一人占めしたいだなんて思えるのだろう。
結空はそう考える傍ら、透と曽根崎は別の枠に囲ってルイから隠そうとしていた。
「あんな奴ら?何?モーションかけられたりした?っていうか、やっぱり色々知ってるんじゃないの?」
「……」
黙りこむ結空に痺れを切らしルイが溜め息を吐く。
「はーっ、何か隠し事でもあるみたいだね。僕には言えない秘密なの?……じゃあいいよ。どうしても言いたくないみたいだし、明日は直接Sクラス覗きに行ってみるから」
「え……」
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