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第93話

───嫌だ。 その思いは声にならず、喉にひたと貼り付いた。 「なに?」 「いや……怖くないのか?αの中に飛び込むなんて」 「どうして?ちゃんとヒート管理出来てれば問題ないでしょ?」 「それはそうだけど」 「心配してくれるなら一緒についてきてよ。Sクラスまで案内して」 ルイの美貌で誘惑なんかされたら、透や曽根崎も心変わりしてしまうかもしれない……。 発情サイクルを把握して体調の自己管理ができるようになった今、以前のように発情に振り回され、自分から相手を誘うようなことはしなくなったし、まだ短い間ではあるが彼らとクラスが離れたことも相まってか接点が少なくなり構われることも殆どなくなってしまった。 発情していないΩに興味などないのかもしれないと心のどこかで思ってしまう。 それは素直に寂しいと思うし、飽きられたのかもしれないと不安にも思う。 そんなところにルイが現れたら? 自分なんかと比べたらルイの方が魅力的だと皆が言うだろう。 「わかった」 結空が頷くとルイはにっこりと笑う。 綺麗なΩ。 結空はルイの美貌から目が離せなかった。 翌日の昼休み、結空はルイを連れてSクラスのある別棟へ訪れていた。 ルイは楽しみで仕方なかったのか、昨夜はあまりよく眠れなかったと欠伸する。それでも相変わらず肌も髪も艶めいていて、結空は何が違うのだろうと思わず自分の黒髪を摘まんでみた。 それに結空はαにいい印象を持っていないので、その足取りは少し重い。 「ここ……だよね。なんか、すごい……」 Sクラスのあるフロアに到着して、自分達はやはりΩなんだと実感した。 αの匂いがした。 無意識に本能でαの匂いを強く感じ取ってしまうのだ。 心臓がとくとくと控えめではあるが早鐘を打ち、頬もほんのり上気する。 ルイもまた、頬を薄ピンクに染めている。 薬でフェロモンを抑えられなかったら大変なことになるだろう。 そんな結空の心配を余所に、ルイは目をキラキラと輝かせながら、結空を頼りにしているのだろう、結空のブレザーの裾を握る。 「結空……」 「あ……」 ルイは本気だ。 本気で自分だけの特別なαを探しにきてる。 自分にはない熱量。 自分の将来を悲観して、進学さえも諦めてしまった自分とは違う。 ルイに対する引け目を感じた瞬間だった。 「ルイ、俺の幼馴染がいるから、ちょっと待ってて」 「うん」 結空は近くにいた男子生徒に透を呼んでもらえらよう頼んだ。

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