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第94話

「結空!」 聞き慣れた透の声だが、久し振りに耳にした気がする。教室の入口から透がすぐに姿を現した。 ほんの数日会っていないだけなのに、透は前より大人っぽく見えた。 透が至近距離まで近付くと、ふわっと透の匂いがした。日光を浴びたような日向の匂いは安心するけれど、αの魅惑的な香りも優しく漂っている。 「透、久し振り、っ」 結空が顔を上げた途端、ぎゅっと透に抱き竦められた。 「会いたかったよ、結空っ!ほんと授業スケジュールがタイトな上ハードで、こんなに結空とすれ違うなんて思ってなかった」 「ちょっと透、苦しい、放して」 「あぁごめん!つい……。あまりに久し振りで。元気だった?」 透の腕から解放され、優しい眼差しに見詰められると胸の奥が甘く疼き、発情期はまだ先なのに腰の奥深くがじんとして、結空は膝を軽く擦り合わせた。 「うん。透も元気そうでよかった」 「うん。結空、新しいクラスはどう?変なやつはいない?大丈夫?結空可愛いから心配してた」 「そりゃあ色々と今までとは違うし色んな奴がいるけど、そんなに心配しなくても大丈夫」 「そう?棟が違うだけで心配の度合いがこんなに違うなんて俺も思ってなかったから……」 眩しく見えたのは一瞬で、透は相変わらずの心配性だ。結空が苦笑いすると、結空の後ろでルイがコホンと態とらしく咳払いした。 「あ、彼は?結空の友達?」 「あぁうん。転校生の赤峰ルイ」 結空が簡単にルイを紹介すると、ルイはすっと前に出て透の手を取る。 その手を両手で胸元に持ってくると、ルイは透を上目遣いで見詰めた。 「……?」 何だかよくわかっていない透はにっこりルイに微笑みかけながら首を傾げる。 「僕、赤峰ルイ。どうぞよろしく」 「月岡透です。よろしくね」 首を傾げていた透だったが、ルイに向けていた視線を少し彷徨わせた。 「間違ってたらごめんね。もしかして、赤峰はΩ?」 「わかる?」 「うん。なんとなく」 「僕に感じない?運命的で電撃的な何か」 「……ごめん、わからない。俺の好きな人はそこにいる結空だから」 「え……」 「ちょっと透、こんなところで何言ってんだよ」 「結空、これは大事なことだよ。はっきりさせておかないと」 「……っ」 ルイが驚きを隠せない表情で振り向き結空を見る。 必死なルイの出鼻を挫いて申し訳ないような気になり、何か弁明した方がいいのかと考えているうちに、ルイが結空を睨んでいることに気付いた。

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