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第95話
「嘘つき。恋人もセフレもいないって言ったくせに」
「俺は何も言ってない」
「恋人?セフレ?結空、何それ」
騙したなとルイの目が物語り、透は透で結空の浮気を疑うような険しい顔つきに変わっていく。
結空は透に抱かれたことを思い出し大慌てで否定した。
「いやそんなのいないってば!ルイ、色々と誤解を招くから変な話するなよな!」
「もうっ」と言って結空はむすっとした顔で唇を尖らせる。
それを透が愛しそうに見詰め、また、その透を見てルイは眉根を寄せた。
「恋人じゃなきゃ何なのさ。変な空気出しちゃって」
「透は幼馴染だよ」
「確かに幼馴染なんだろうけど。でもなんだか、まるで結空に恋でもしてるみたい」
「それは……」
「よくわかったね。そのとおりだよ。結空は俺の好きな人だよ」
結空が言葉を詰まらせると透が代わりに返事をした。
透は堂々とそんなことを恥ずかしげもなくさらっと口にし、またそれが絵になってしまう。
その姿は表も裏もなく自然体で純粋。きれいだなぁと思った。
結空はそんな透にいつの間にか見惚れてしまい、それを見てルイが溜息を吐いた。
「そっかぁ。まぁいいや。いい男だとは思うけど僕も君にピンとくるものなかったしね」
ルイがつまらなそうな表情を隠そうともせず透に視線を移すと上から下までしろじろと眺めながら言う。
そんな物色するような目で透を見るなと言いたいところだが、透のことは諦めようとしているのがわかってほっとした。
「他にはいないの?将来有望なαは」
ルイはくるっと180度結空へと体の向きを変えた。
ルイの気持の切り替えには恐れ入る。何がそこまでルイを駆り立てるのだろうと興味が湧く。
焦っているようにも見える。
ルイがこんなにも必死な理由。聞かされていない何か別の事情もあるような気がした。
「あそこにいる眼鏡が金子で、隣のチャラそうなのが田所。あの二人もαだよ」
「そうなんだ。呼んでくれる?」
「いいけど」
そこで透が「待って」と口を挟んだ。
「いいよ結空。大きな声出すと目立つから俺が呼んでくるよ」
「うん。ありがとな」
透が教室へ戻っていく。
その後ろ姿を見ながらルイがぼそっと呟いた。
「愛されてるね、結空」
「え……」
「なんでこんなに平凡で地味な結空には番候補がいて、僕にはいないんだろう?おかしいよね」
「ぷはっ、ははっ」
平凡とか地味とかルイに直接言われたのは何度目なんだろう。
ともすれば悪口にも聞こえかねないようなことを本人を目の前にして真面目な顔で言ってしまうルイに笑いが込み上げる。
「何がおかしいの」
「だって、ふふっ、ルイひどいって。もう怒る気も失せる」
そういう性格なのだろう。ルイもまた裏表なく我が道を行くタイプらしい。
しかし外見がいいわけでもないのにΩってだけでαにモテるとこそこそ陰口を叩かれるより余程気持ちいい。
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