97 / 145
第97話
ルイの発した言葉。
ーーー運命の人。
その場にいた全員がルイの発言に驚き戸惑った。
ルイは微かにΩのフェロモンを纏いながら、うっとりとした眼差しで結空を後ろから抱いている曽根崎に視線を注いでいる。
(やっぱり曽根崎のフェロモンが強いんだ……)
結空の体が勝手に曽根崎に惹かれるようにルイもまた惹かれているようだった。
存在を半信半疑に思っていた運命の番というシステムは唯一の相手じゃなくても成り立つのかもしれない。
ルイを見ているとそんな気がしてくる。
フェロモンの強さで体の芯が大きく揺れるのは自分だけじゃない。
「僕の番になってください」
ルイは目の前の結空を気にも留めず、その後ろの曽根崎に向かって告白する。
曽根崎は地元で知らない者はない代議士一家の嫡男だ。この地域へ越してきたばかりのルイはそのバックグラウンドを知らずに本能のまま突き進んでいる。
きっと曽根崎はルイが求めている理想のαなのだ。
結空はルイが猛進する姿に尻込みし、曽根崎を渡したくないのにルイに声をかけることもできなかった。
「番?」
曽根崎は結空を抱いたまま口を開く。
結空の心臓がどくどくと嫌な音を立てていた。
「ちゃんと薬飲んでるのに、君に体が反応したんだ。これって運命の番ってやつでしょう?病院の先生はそう教えてくれたよ」
「何?お前俺とヤりてーの?空き部屋の鍵なら持ってるからいつでも相手してやるけど。だが運命は感じねーな」
「どういうこと?」
「俺が噛みたいのはこいつ」
ちゅっと音を立てて曽根崎が結空のうなじに口付ける。
「……っ」
「なんでかわかんねぇけど、こいつはΩの中でも別物だ。運命を感じるとしたらこいつなんだよ」
なんだかわからないけれど、泣きたくなった。
こんな風でも大事にされてると感じてしまったから。
結空は胸をじんとさせていたが、ルイは大きな瞳を涙で潤ませている。
「……そんな。僕、薬飲んでるのに、こんなに息苦しいのは初めてだ。なんでなの!?そこの月岡も、あんたも……、結空、結空って!こんなちんちくりんのどこがいいわけ!?」
(ああ……、今度はちんちくりんなんて言われてる)
けれど、ダメージはそれほどない。
ルイの悪気ない暴言に少しは慣れたのだろう。それにこの状況ではルイが気の毒に思えて反論する気にもなれなかった。
ルイのやるせない悔しさは怒りとなり、攻撃の矛先は結空へと向けられる。
「僕諦めない。結空、僕この人とセックスしてくるから邪魔しないでね。授業はさぼるから先生には上手く言っといて」
「え……」
何と応えていいのか結空が狼狽えているうちにルイは曽根崎の手をきゅっと握る。
「ま、いいけど。お前美人だし」
Ωは性の対象であり、ルイはその中でも上玉で体を交える価値がある。
曽根崎の中では多分その認識なのだろう。
「最低だな曽根崎」
透の声に耳を貸すこともなく、曽根崎とルイは肩を並べて歩き出す。
ともだちにシェアしよう!