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第99話
透までもがそんなことを言うなんて。
咄嗟に嫌だと自分の気持ちを口にして透の前に立ち塞がる。
絶対に嫌だ……!
あんなに優しく激しく自分を抱いてくれた透が別のΩを選んだら?
あの優しい声も笑顔も、自分じゃない誰かに向けられたらと考える。
きっとこの身を嫉妬で焼いてしまうだろう。
今はもうただの幼馴染とは呼べない、そんな透を失うことは考えられなかった。
結空は縋る思いで透の胸に握った手をぶつけるようにして置いた。
「結空……」
「嫌だ、透!お願い、俺の側にいて……!」
自分が取り乱してみっともない姿を晒していようと構わなかった。
そんなことよりも透を繋ぎ止めておきたくて必死だった。
「結空、俺はどこにも行かないよ。結空がどういう反応するのかちょっと試しただけ」
「え……な……何だよそれ……、ひどい」
「ごめん」
透が申し訳なさそうに眉を下げて微笑み結空をその胸に抱き締める。
包まれた胸の温かさ、肌に伝わる透の熱を感じ次第に緊張が解け安堵した。
「そうやって曽根崎にも結空の本当の気持ちが伝えられれば良かったのにね」
「あ……」
透に言われて気付いた。
つい先刻、曽根崎はルイを拒絶するどころか結空の目の前で受け入れ、堂々の浮気宣言をしたのだ。
どうしてその時透に言ったように、曽根崎にも自分の気持ちを伝えられなかったのだろう。
「って敵に塩送るほど俺は親切でも優しくもないから、結空が本当は何考えてたかなんて曽根崎には教えてやらないけど」
「透……」
「キスしたい、結空」
透に強請られ結空が踵を少し浮かせた。
透のブレザーを少し引っ張り透に顔を寄せる。
ふわっと優しく香る透の匂いに本能が引き寄せられて唇を重ねた。
自分は今、不安を掻き消して欲しくて、二股をかけているような自分を慰めてほしくて、自分を好きだと言ってくれる透に最低なことをしている。
「透、俺、最低だ……」
「うん、確かに結空はひどいことしてる。自覚あったんだね結空」
「う……うん。曽根崎のことで甘えてごめん」
「いいよ。最低でも淫乱でも結空は結空だ。ずっと俺の可愛い大好きな人だよ」
最低。淫乱。透にここまでハッキリ言わせてしまうなんて、と二の句が継げない。
もしかしたら自分が思っている以上に、透と曽根崎に、随分と失礼なことをしているのではないだろうか。
透はFクラスの前まで結空を送ってくれた。
教室へ戻ると恭也が結空を迎えてくれて、微かに香り立つ結空のフェロモンで頬を赤く染めた。
ルイは席に戻っておらず、5限目が終わってもとうとう戻ってこなかった。
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