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第101話

わかってる。 我儘で身勝手なことを言ってるって。 でも、どうしていいのかわからない。 曽根崎が溜め息を吐いた。 「……」 口の悪い曽根崎が結空へ向ける言葉を失っているように見えた。 きっと呆れられているのだ。 αを手玉に取って手のひらで転がすΩ。 一体何様のつもりなんだと思われているのだろう。 もし曽根崎がルイを性欲処理のためにここへ連れ込んでいたとしても、結空の気の多さを指摘されればそれを咎める権利はない。 そんなに他の誰かが嫌なら自分の体で繋ぎ止めればいいんじゃないか。 しかし透を思えばそれもできず、結空の中に心苦しいジレンマが生まれる。 終わりの見えないジレンマだ。 今のところ二人が許容してくれているだけで、自分には二人を繋ぎ止める資格なんてないのだ。 先刻透とキスしたばかりなのに、腕にいる曽根崎の香りに煽られ、腰が疼く。 薬の効き目が曽根崎相手だとどうにも弱くなる。 キスがしたい、素肌を合わせたいとどんどん不埒な欲求が高まっていく。 だめだ。やっぱりこれでは只の淫乱だ。 こんなこと許されない。 「俺何言ってんだろ……ごめん、さっき言ったこと忘れて」 結空は曽根崎から手を離し踵を返す。 「は?おい、矢萩!」 曽根崎の声の制止を振り切って生徒会室を飛び出し、結空はそのまま逃げるように駆けた。 思えば曽根崎があのクリスマス以降、結空に手を出さなかったのは結空の迷う気持ちを尊重してくれたからだろう。 結空がどうしたいのか決断を待ってくれていたということだ。 それに甘え切っていた自分が情けない。 (俺は何を思い上がっていたんだろう。俺みたいなΩが……透や曽根崎に釣り合うわけがないんだ) このままでは透も曽根崎も、答えを出さない結空に振り回されて無駄な時間を過ごすことになる。 大学受験を控え限られた時間しかない透と曽根崎。 自分とは進む道が違う。 その先も別々の未来が待っていると容易く想像できてしまう。 就職を決めた結空とは違う優秀なαの足枷にしかならないのなら。 (このままじゃ駄目なんだ) 透か曽根崎かどちらか一人を選ぶという選択肢の他に、もう一つ。 (俺が、やめればいい) 二人を諦める。 そうだ。きっと二人は、自分のようなΩでなくても、もっと各々に相応しいΩがいる筈だ。 結空が曽根崎の強いフェロモンに惹かれ我を忘れてしまうように、ルイだって曽根崎に惹かれていたじゃないか。 薬を飲んでいても強く惹かれる。 それだけで運命と呼ぶのならば運命の相手は一人じゃない。 透だってそうだ。 格好よくて、驚くほど優しくて、自分をいつもちやほやと甘やかしてくれる。 それが心地よく、透の一途さに絆されただけなのではないか。 胸が甘く疼けば腹の奥も甘く絞られ、薬を飲もうが飲むまいがΩはいつでもセックスしたい。 結局Ωはそういう生き物なのだ。 そこにドラマチックな運命なんて感じない。 (俺がやめればいいんだ)

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