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第105話
その翌日も体は発情の熱に飲まれ、勉学が疎かになってしまうと危惧していたことは頭からすっぽりと抜け落ちて学校は休む他なかった。
結空が学校へ電話を入れると、「君はΩだから一週間特別休が取れるよ。欠席にはならないからゆっくり休みなさい」と言われ、暗にお前はΩなんだから発情期に学校へ来るなんてとんでもないと、遠回しに言われているような気がしてならなかった。
食欲も落ち、その代わりにひたすら甘い物を欲し、あいりから菓子を譲ってもらっては「女みたい」と嫌味を言われた。Ωとしてこの家で暮らせるのだろうかと転化した当初はとても心配していたが、どうやら家族には結空のフェロモンがあまりよくわからないらしい。調べてわかったことだが、血縁者に限っては遺伝子が近いから結空のフェロモンは影響を与えないそうだ。
結空は学校への連絡を終えるとベッドへまた舞い戻った。
肌掛けを一枚被って常時勃起中の性器へと手を伸ばす。
「っん……」
刺激を与えると気持ちよくて、引いては返す波のように何度も射精感が押し寄せる。
そろそろと自分の性器を握りこみ前後に擦ろうとした矢先、ドアがコンコンとノックされた。
「兄貴ー、起きてる?」
あいりの声だった。自分の身内だからといって、オナニーばかりしている猿みたいな姿は見せたくない。
ジンジンと痛いほどに張り詰めるそこから手を離し、慌ててズボンの中から手を抜いた。
「うん、なに?」
「透くん来てるよー。じゃあたし学校行くね。透くんごゆっくりぃって透くんも学校じゃん!遅刻しないようにね」
「うん。行ってらっしゃいあいりちゃん」
ドア一枚隔てた先から透の声が聞こえた。
この状態で透に会ったら間違いなく理性は崩壊し、ベッドの中へ透を引きずり込んでしまうだろう。
結空の心臓がどくどくと音を立てる。
(なんで……。どうしよう)
パタパタとあいりが走り去る音がして、結空はフェロモンを覆い隠すかのように肌掛けの上から更に毛布を頭から被る。
「おはよう結空。学校来てないって結空のクラスの月居から聞いて……。その……大丈夫?出来れば顔みたいんだけど……」
「あ、開けちゃダメ!今俺、薬飲んでないんだ。副作用出ちゃって……」
ドア越しではあるが、透の匂いが微かにする。その香りが鼻腔を刺激し、結空の体は火が付いたように熱くなり、飛散するフェロモン量が一気に増す。
(透に会いたい)
「副作用?そうだったんだ。大変だったね。……今でも大変だよね、変なこと言ってごめん。2日前から外に出ると結空の可愛い匂いするなって思ってた」
まさか外までフェロモンが漏れていたなんて……。
「何…可愛い匂いって……。と、ともかく、これ治まるまで学校休むことにした。透、遅刻するぞ。俺はいいから学校行けよ」
(透、入ってきて)
「うん。結空が元気ならいいんだ。俺も結空の匂いに過剰に反応しちゃうから……そろそろ行くね」
(行かないで……!)
「い、やだっ、透っ」
本当は透に触れてほしくて仕方がない。本能のまま発情している体は正直だった。
毛布から腕を伸ばして身を乗り出す。途端、体のバランスを崩し結空の視界がかくんと下へずれた。
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